嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 あの日、王妃の茶会で再会するまでは、ずっと手紙のやり取りだけが続いていた。初対面でリーゼロッテに恋をしたと言う割には、顔が見たいと思うこともなかったのだろうか。

(言っても、あの頃のわたしなら会いに来られても困ったでしょうけど)

 黒モヤ魔王との文通に、苦労していた日々が懐かしい。届く贈り物すら恐ろしすぎて、手にも取れない有様(ありさま)だった。

「お前が成人を迎えるまで、会いに行くのは止められていた」
「止められて? いったい誰に?」
「……ラウエンシュタイン家にだ」

 眉間のしわを深め、ジークヴァルトが歯切れ悪く答える。近づく城を見上げながら、リーゼロッテはこてんと首を傾けた。

「ラウエンシュタイン家に……? もしかして、ヴァルト様を見たわたくしがあまりにも大泣きしたせいで?」

 はっとしてジークヴァルトを見やる。あの日のギャン泣きぶりは、自分で思い返しても相当なものだった。それを見た両親が、何かいらぬ誤解をしたのかもしれない。
 理不尽(りふじん)に嫌われて遠ざけられたのだとしたら、幼いジークヴァルトはひどく傷ついたのではないだろうか。

「それはない。いや、理由はそれかもしれないが、恐らく原因はそれではない」

 やはり歯切れ悪く答えると、ジークヴァルトはふいと顔をそらした。言いたくないことを隠すそのサインに、リーゼロッテはますます困惑顔となる。

「だったら何が理由で……」
「お前は覚えていないんだろう? だったら今さら知る必要はない」

 なんだかどこかでしたことのあるやり取りだ。記憶を探り、思い当たることをジークヴァルトに問うてみる。

「もしかして……“ヴァルト様がずっとわたくしの名前を呼べなかった理由”と何か関係しているのですか?」

 ぐっと口をへの字に曲げて、ジークヴァルトはさらに顔をそらした。いつかジークハルトにそんなことを聞かされたが、結局その件は有耶無耶(うやむや)に誤魔化されたままになっている。

(言いたくないのに無理に聞き出すのもアレよね……こうなったら自力で思い出すしかないわ)

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