嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 元はと言えば自分の勘違いから起こったことだ。これ以上ジークヴァルトを問い詰めても仕方がない。いい機会だから、昔のことはすべて懺悔(ざんげ)してしまおう。そんな思いもあって、リーゼロッテは話題を変えた。

「わたくしたち、子どものころから(ふみ)のやりとりをしておりましたでしょう? 実はあれもジークフリート様(あて)に書いていると、わたくしずっと勘違いしてしまっていて……」
「いや、あれは確かに父上宛だった。お前は何も間違っていない」
「ですがお返事をくださっていたのはヴァルト様でしたわ」

 初恋の人(ジークフリート)との思い出にと大切にしまっておいた手紙の筆跡は、どれもジークヴァルトのものだった。初めてそれに気づいた時の衝撃は、今でも忘れられないでいる。

「あの頃、オレはフーゲンベルク公爵の代理として返事を書いていた」
「代理として……?」
「ああ。だからあれは確かに父上宛の手紙だった」

 むすっとした様子のジークヴァルトをぽかんと見上げる。

「もしかして、ヴァルト様宛で書かなかったこと、怒ってらっしゃるのですか?」
「怒ってなどいない。オレが爵位を継いだ後は、すべてオレ宛になった。だから返事ももう代理でなくなった」

 言い訳を並べたような言葉が、ジークヴァルトにしては珍しく感じた。やはりジークフリートとの文通を、快く思っていなかったのかもしれない。

 ジークヴァルトが爵位を継いだ後は、恐ろしくて手紙すら開けなくなったリーゼロッテだ。自分の思い込みのなせる(わざ)だったが、当時はエラに代わりに読んでもらっていたなどと言い出せない雰囲気だ。
 目を泳がせて、何かほかに話題を探す。手紙(つな)がりで不自然にならない、いい流れを思いついた。

「わたくしたち、これまでたくさん(ふみ)のやり取りをしてきましたものね」

 ダーミッシュ領に戻った時などは、それこそ交換日記のごとく毎日手紙を書いていた。ずっと一緒にいる今は、文をしたためることもない。ひと言ふた言だけ書かれたそっけない返事が懐かしく思えて、リーゼロッテの口元が知らず(ほころ)んだ。

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