嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「お前の手紙は今までの分、すべて保管してある」
「そういえば、ヴァルト様のお部屋の棚にしまってありましたわね……」

 過去書いた手紙のみならず、リーゼロッテが子どものころに贈ったガラクタまでも、いまだ居間の棚に宝物のごとく飾られている。

「もう片付けてもよろしいのでは?」
「いや、駄目だ」
「ですが、取っておいても場所ばかりとって、なんの役にも立ちませんでしょう?」
「そんなことはない。オレは今でも定期的にすべて読み返している」
「読み返し……手紙をですか?」
「ああ」
「なんのために?」
「子どものころからの習慣だ」
「習慣……? 子どものころからの?」
「ああ」

 唖然となって、オウム返ししかできなくなる。どうしてそんなことをするのかとも思ったが、理由と言ったらひとつしかないのだろう。

(ヴァルト様ってどんだけわたしのことが好きなのよ……!)

 エントランスの大きな扉の手前まで来て、思わず足が止まってしまった。赤くなったまま黙ったリーゼロッテに、ふっと魔王の笑みが向けられる。制止する暇もなく、素早く唇を奪われた。

「も、もうっ、時と場所をお考えくださいませ!」
「そんな顔をするお前が悪い」

 しれっと返ってきた言葉に頬を膨らませると、前触れなく中から扉が開かれた。驚きに慌てて居住まいを正す。

「お帰りなさいませ、リーゼロッテ様」

 広いエントランスには老齢の女性だけが立っていた。隙のない動作で腰を折り、リーゼロッテへと(こうべ)()れる。

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