嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「あなたは……?」
「わたしはルル・ドルン。ラウエンシュタイン家の家令を務めさせていただいております」
「名乗らせてごめんなさい。わたくし、ここでのことは何も覚えていなくて……」
「無理もございません。リーゼロッテ様はまだお小さくあらせられました。わたしへの気遣いは不要にございます」

 表情を変えずに答えた家令に、それでもリーゼロッテはすまなく思う気持ちを消せなかった。自分が覚えている相手に忘れ去られてしまうのは、とても悲しく寂しいことだ。

「ありがとう、ルル。でももう忘れたりしないわ」
「ありがたきお言葉、いたみいります」

 無表情のまま、ルルは再び静かに首を垂れた。そっけないが冷たい感じはしない。そんなルルが今度はジークヴァルトへ視線を向けた。

「不在の(あるじ)に変わり、フーゲンベルク公爵様に御礼申し上げます。リーゼロッテ様が昔と変わることなくおやさしい心根でおられるのも、公爵様の手厚き庇護があってのことでしょう。どうぞこれからも、リーゼロッテ様のことをよろしくお願い申し上げます」
「ああ」

 短く返したジークヴァルトも負けず劣らずそっけない。ルルに親近感を感じるのも、ジークヴァルトを見慣れているせいかもしれなかった。

「それでルル……イグナーツ父様はいらっしゃらないの?」
「イグナーツ様は春にお出かけになって以来、まだお戻りになられておりません。例年ですと、白の夜会が行われる前後でご帰還なさいます」
「そう……」

 また会えるかと思っていた実父の不在に、リーゼロッテはしょんぼりと肩を落とした。

「ねぇ、ルル。父様がお戻りになったら、連絡いただけるようお願いしてもらえないかしら。そうしたらわたくし、すぐにでも父様に会いに来るわ」
「承知いたしました」

 快い返事に笑顔になるも、リーゼロッテは伺うようにジークヴァルトを見た。勝手に決めてしまったが、果たして許してもらえるだろうか。

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