嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ジークヴァルト様、構いませんわよね……?」
「ああ、問題ない。そのときはオレが連れていく」

 うれしくてリーゼロッテは瞳を輝かせた。ひとりで里帰りすらできない自分が情けなくもなるが、異形を騒がせる体質を思うと、ジークヴァルトに同伴をお願いするよりほかはない。

「わたくし、ヴァルト様のご負担にならないように、力の扱いがうまくなるようもっともっと励みますわ」
「そんなことは必要ないと言っただろう」
「ですが……」

 見上げるとやさしく頬を撫でられる。青の瞳が細められ、親指が下唇をゆっくりなぞってきた。いつもキスの前にされるその仕草に、リーゼロッテの頬が一瞬で桜色に色づいた。

 自然に口づけられそうな流れの中、視線を感じてはっと我に返る。すぐそこで、定規(じょうぎ)のようにぴしりと背筋を伸ばしたルルが、無表情のまま立っていた。動揺して、思わずジークヴァルトの胸を押しのける。

「ご、ごめんなさい、こんなところで」
「わたしのことはお気になさらず。どうぞお続けになってください」

 生まれた家と言えど、記憶も残っていない今や他人のお宅様(たくさま)だ。そんな玄関先でさぁどうぞと言われても、これ以上ふたりでイチャコラできるはずもない。

「ラウエンシュタイン家はリーゼロッテ様のお戻りを待ち()びておりました。遠慮することなどございません。どうぞ思うままにお過ごしください」
「それなら城の中を見て回ってもいいかしら……?」
「もちろんでございます。リーゼロッテ様のお部屋も以前のまま整えてあります。順にご案内いたしましょう」

 ルルの先導のもと、城の中をあちこち回る。生家と言っても、初めてに思える場所ばかりだった。やはり他人様のお宅のように感じて、リーゼロッテはルルの説明を物珍しく聞いていた。

(やっぱりここは静かだわ……)

 以前訪問したグレーデン侯爵家もそうだったが、自分たち以外、人の気配がまるでしない。だが息が詰まりそうな雰囲気だったグレーデン家とは違って、この城は空気の流れが感じられた。どこもかしこも清浄な気で満ちている。

「では最後にリーゼロッテ様のお部屋にご案内いたします」

 終わりが近づくのを知り落胆するも、滞在時間は限られている。案内が手短なのも仕方がないことだろう。

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