嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
(あれ……?)

 渡る廊下でリーゼロッテはふと足を止めた。

(わたし、ここ知ってる)

 来た後ろを振り返り、再びルルが行く奥に目を向ける。

「どうした?」
「いえ、わたくし、なんだかここを……」

 ルルが進む先には、きっと子ども部屋がある。振り返った廊下の角を真っすぐ行くと、一年中花が咲く美しい庭に出るはずだ。

 衝動にかられて、リーゼロッテは駆けだした。ジークヴァルトの静止も耳に届かず、スカートをつまみ上げ、誰もいない廊下を息を切らしてひた走る。

 庭に出て、きょろきょろと辺りを見回した。茂みの向こうに見つけた小道を進み、幅広(はばひろ)の石の階段を駆け下りる。

「やっぱり、ここ知ってる……」

 そうだ。そこに見える生垣(いけがき)の奥に、いつも小鬼と遊んでいた花畑がある。大事なお客様が来るからと、()()()は妖精たちにお願いをして、いつもより多めに花を摘ませてもらった。
 両手いっぱいの花束を抱え、城へ戻ろうとうきうきで小道を進む。スカートにまとわりつく小鬼たちとじゃれ合いながら。

『ロッテ、お待ちかねのひとを連れてきたよ』

 父親の声が聞こえたような気がして、降りてきた石の階段をリーゼロッテははっと見上げた。

(そうよ、ここでジークヴァルト様と初めて会ったんだわ)

 ちょうどあの辺り、幅広の階段の上から、真っ黒いモヤを纏ったジークヴァルトが黙ってこちらを見下ろしていた。

 とそのとき、リーゼロッテを囲む庭が眩暈(めまい)のように揺らめいた。雪景色から一変、庭木の緑が視界に映る。急に目線が低くなり、世界がひとまわり大きく膨らんだ。

 抱える花々の、むせかえるあまい匂い。髪の毛をさらう秋の風。はためくスカートにしがみつく小鬼たち。

 いちばん上の段の(へり)に、黒髪の少年が立っている。前髪がさらりと風になびき、自分を見下ろす宝石のような青の瞳が目に飛び込んだ。

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