嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 そんなことを思って紅茶に口をつけていると、耳の守り石がふわっと暖かくなった。なんとなくジークヴァルトが近くにいるような気がして、サロンの入り口をじっと見やる。そんなリーゼロッテにエラが不思議そうな顔をした。

「奥様? どうかなさいましたか?」
「いえ、ヴァルト様がもうすぐここにいらっしゃるんじゃないかと思って」

 その直後、本当にジークヴァルトが入り口から現れた。慌てたエラがさっと壁際に移動する。
 大股で近づいたジークヴァルトは、リーゼロッテを抱き上げて膝に座らせた。すぐさまあーんと菓子が差し出される。
 素直にそれを口にして、リーゼロッテはふふと笑った。ジークヴァルトの胸に顔を寄せ、甘えるようにもたれかかる。

(そうそう、この感じよ……!)

 耳に鼓動を聞きながら、うっとりとため息をこぼした。膝の上でやさしく髪を梳かれる。この穏やかな時間が、何よりも安心できた。

 月のものが来てから、一度もまぐわってはいない。ジークヴァルトも普通にしていて、夜の間も割と平気そうだ。

(やっぱり毎晩エッチする必要なんてないんだわ)

 これからは遠慮なく適度に断りを入れよう。長く続いていく夫婦生活に我慢は禁物だ。ジークヴァルトと円満に過ごしていくためには、自分の意見もきちんと聞いてもらわなければ。

「ん……?」

 ふとおしりの下に違和感を覚えて、リーゼロッテは顔を起こした。何かがごりごりと当たっている。ジークヴァルトの膝の上、位置を変えようともぞりと動くと、ごりごりがさらにごりごり感を増大させた。

 それが一体何なのかを悟り、反射的にジークヴァルトを見上げた。熱のこもった青の瞳に見つめ返されて、リーゼロッテの顔が真っ赤に染まる。と同時に空気がドンと揺れ、異形の者が荒れ狂ったように騒ぎ始めた。

「こ、公爵家の呪い……!?」

 久しぶりの発動に、サロンが一気にひっくり返る。どこにいたのかと思うくらいの数の使用人が、一斉に調度品を押さえにかかった。すぐそこにあるティーカップが真っぷたつに割れて、驚いたリーゼロッテはジークヴァルトにしがみつく。

「そろそろ……」
「え?」
「そろそろ、もう大丈夫な頃合いだろう?」

 周囲が阿鼻叫喚に揺れ動く中、ジークヴァルトが耳元で囁いた。何が、とは言われなかったが、おしりの下のごりごりがそのすべてを物語っている。

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