嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
第9話 星に堕ちる者 - 前編 -
瞳を閉じたまま薄く笑みを刷く神官を前に、全身から血の気が引くのが自分でも分かった。嫌な汗が背中を伝う。
「どうしてあなたがここに……」
「わたしも同じ言葉で問いたいところですが……思えばここは貴女の家でしたね、リーゼロッテ・ラウエンシュタイン」
「わたくしはリーゼロッテ・フーゲンベルクです」
精一杯睨みながら言う。そうでもしないと、恐怖で体がすくんでしまいそうだった。
「ああ、託宣の婚姻を前倒しされたのでしたね。龍の盾の彼も、ハインリヒ王を上手く使ったものだ」
軽く鼻で笑った美貌の神官に、リーゼロッテは震える唇をかみしめた。自分を誘拐した犯人が、いまだ野放しにされている。そのことに驚きを隠せない。
それでも己を奮い立たせた。いつでも逃げ出せるよう、心づもりをしながら。
「わたくしの質問に答えてください。誰の許しを得てこの城に入ったのですか」
「許しも何も、ここへは正式な神官の務めで参ったのですよ。神殿代表として月に一度はお伺いしているのですがね」
「そんな……」
神官が半歩踏み出し、少しずれていた体を真正面に向けてきた。そのわずかな動きに、リーゼロッテは思わず大きく後退る。
「それ以上は近づかないで」
「そのように怯えないでください。いきなり貴女を取って食ったりはしませんよ」
「分かるものですか。犯罪者のあなたの言うことなど、信用できるはずもないでしょう?」
恐れを悟られたくはないが、どうしても声が震えてしまう。
「これはまた心外な。わたしは罪人などではありません。今こうして自由でいるのが何よりの証拠。王家も騎士団も、誰ひとりとしてわたしに手出しなどできないのですよ」
向けられる余裕の笑みに、得体の知れない恐怖が膨らんだ。常識の通じる相手ではないことを、否応なしに再認識させられる。
「以前も申し上げましたが、わたしは青龍そのもの。彼らは裁く立場ではなく、むしろわたしに裁かれる側の取るに足りない存在だ」
「何を馬鹿げたことを……やっぱりあなたは狂っているわ」
耳の守り石に触れながら、懸命に声を絞り出した。ジークヴァルトはすぐ近くにいる。そう自分に言い聞かせて。
「どうしてあなたがここに……」
「わたしも同じ言葉で問いたいところですが……思えばここは貴女の家でしたね、リーゼロッテ・ラウエンシュタイン」
「わたくしはリーゼロッテ・フーゲンベルクです」
精一杯睨みながら言う。そうでもしないと、恐怖で体がすくんでしまいそうだった。
「ああ、託宣の婚姻を前倒しされたのでしたね。龍の盾の彼も、ハインリヒ王を上手く使ったものだ」
軽く鼻で笑った美貌の神官に、リーゼロッテは震える唇をかみしめた。自分を誘拐した犯人が、いまだ野放しにされている。そのことに驚きを隠せない。
それでも己を奮い立たせた。いつでも逃げ出せるよう、心づもりをしながら。
「わたくしの質問に答えてください。誰の許しを得てこの城に入ったのですか」
「許しも何も、ここへは正式な神官の務めで参ったのですよ。神殿代表として月に一度はお伺いしているのですがね」
「そんな……」
神官が半歩踏み出し、少しずれていた体を真正面に向けてきた。そのわずかな動きに、リーゼロッテは思わず大きく後退る。
「それ以上は近づかないで」
「そのように怯えないでください。いきなり貴女を取って食ったりはしませんよ」
「分かるものですか。犯罪者のあなたの言うことなど、信用できるはずもないでしょう?」
恐れを悟られたくはないが、どうしても声が震えてしまう。
「これはまた心外な。わたしは罪人などではありません。今こうして自由でいるのが何よりの証拠。王家も騎士団も、誰ひとりとしてわたしに手出しなどできないのですよ」
向けられる余裕の笑みに、得体の知れない恐怖が膨らんだ。常識の通じる相手ではないことを、否応なしに再認識させられる。
「以前も申し上げましたが、わたしは青龍そのもの。彼らは裁く立場ではなく、むしろわたしに裁かれる側の取るに足りない存在だ」
「何を馬鹿げたことを……やっぱりあなたは狂っているわ」
耳の守り石に触れながら、懸命に声を絞り出した。ジークヴァルトはすぐ近くにいる。そう自分に言い聞かせて。