嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 父イグナーツはベトゥ・ミーレ山脈にいるマルグリットを、毎年探しに行っていると言っていた。その言葉を疑うつもりはないが、ラウエンシュタイン公爵家は代々女性が爵位を継いでいる。現当主である母が行方知れずな上、本来なら跡継ぎになるはずのリーゼロッテは伯爵家の養子となった。貴族として家の存続を考えると、不可解に思えることばかりだ。

「リーゼロッテ様の養子縁組に関しましては、イグナーツ様がディートリヒ王に上申なさいました」
「父様が……?」
「はい。そしてもうひとつのご質問ですが、わたしはそれに対する答えを持ち合わせておりません。わたしはマルグリット様がお戻りになる日まで、家令としてラウエンシュタイン家を守るように仰せつかっているのみでございます」

 淡々と答えるルルは、仕える(あるじ)(めい)には疑問も疑念も差し挟まない主義のようだ。こうなればイグナーツに真実を聞くしかない。しかし以前問いかけようとしたとき、龍に目隠しをされたことを思い出した。

「そろそろ参りましょう。公爵様がお待ちです」

 すぐそこにジークヴァルトの気配を感じ、リーゼロッテはルルを置いて駆けだした。

「ジークヴァルト様!」

 胸に勢いよく飛び込んだ。力強く受け止められて、あたたかな青の波動に包まれる。

「どうした? 何かあったのか?」
「わたくし先ほどそこで……」

 自分を(さら)った神官と出くわしたことを訴えようとするも、喉が詰まったように声が出せなくなった。龍が目隠しをしてきたのだ。それが分かるとリーゼロッテに絶望が押し寄せた。あの男の言うことに嘘偽りはないのだと、まるで龍が証明しているようではないか。

 ただならないリーゼロッテの様子に、ジークヴァルトの眉根が寄せられた。

「何があった?」
「ぎゅっと……ぎゅっとしてくださいませ、ヴァルト様」

 不安をすべて消してほしくて、広い背に回した手に力を入れる。応えるようにジークヴァルトも、強く抱きしめ返してきた。

「もっと、もっと……」

< 125 / 302 >

この作品をシェア

pagetop