嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 王都の外れ街にある一軒家を目指し、早朝の雪道を進む。ここら一帯の土地はカイが保有しているため、人気(ひとけ)はほぼないと言っていい。フードを目深(まぶか)にかぶったベッティは、それでも用心深く周囲を伺った。
 ほどなくしてこじんまりした家が見えてくる。平民にしてみれば立派なものかもしれないが、貴族の別荘と思うと粗末と嘲笑(ちょうしょう)される程度の建物だ。

 たどり着いた家の前で、もう一度辺りを伺った。誰もいないことを確認し、(きし)む扉を押し開く。待ち構えていたように骨太で短足な大型犬が、勢いよくのしかかってきた。激しく尾を振りながら、垂れ下がった長い耳を揺らし、ベッティの顔をべろんべろんに舐め回してくる。

「わっぷぅっ! リープリングぅ、分かったから歓迎はその辺でぇ」

 リープリングはカイの犬だ。元々は王城で第二王女に飼われていたが、隣国の王子に輿入(こしい)れする際に、カイへと託していったらしい。だるだるの皮膚の愛嬌ある顔は、とてもではないがそんな高貴な犬とは思えない。押し倒す勢いで、リープリングは尚もベッティに甘えにかかってきた。

 こうなることは見越していたので、手土産にと持ってきた犬のおやつを遠くに放り投げる。転がるそれを追いかけて、リープリングは夢中になって食べだした。そのすきに手際よく部屋の掃除をし始める。

 窓を開け、まずは部屋に風を通した。室内の(ほこり)が、差し込む陽光の(おび)に舞い踊る。カイはこの家を王都の隠れ家として使っている。老夫婦に管理を任せ、普段は人が訪ねてくることもない。
 ベッティはカイとここで落ち合う約束をしていた。こんなときは早めに来て、掃除を済ませて待つことにしている。カイの居場所は少しでも快適にしておきたい。

 (せわ)しなく動き回るベッティのあとを、リープリングが尾を振りながら追いかけ回してくる。間もなくやってくるカイのために、ちょっとつまめる軽食も用意した。

「さてとぉ。まだ時間はありそうですしぃ、仕上げはリープリングのお洗濯とまいりましょうかぁ」

 ベッティの瞳がキランと光る。ロックオンされたリープリングが、きゅうんと(おび)えるように後退(あとずさ)った。

「くふふぅ、逃がしませんよぅ。カイ坊ちゃまに会うんですからぁ、綺麗に身づくろいするのがレディのたしなみってもんですよぉ」

 素早く羽交(はが)()めをして、リープリングを(なか)ば引きずり湯屋へと連れていく。大きなたらいに湯を張って、自分もあわあわになりながら、ベッティはリープリングを念入りに三度洗いした。

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