嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ふぅ、なかなか手ごわい汚れ具合でしたぁ」

 リープリングがぶるぶると大きく体を震わせ、水しぶきが四方八方飛んでいく。びしょびしょになった床をふいてから、ベッティ自身もこぎれいに身支度しなおした。

「さぁさ、次は御髪(おぐし)をつやっつやに整えましょうねぇ」

 暖炉の前で丸くなっていたリープリングを丹念にブラッシングしていく。炎に照らされる毛並みが光沢を放つさまを眺め、ベッティは満足そうにうなずいた。

「わぁ、リープリングぅ、とっても美人になりましたねぇ。きっとカイ坊ちゃまも褒めてくださいますよぉ」

 わふっとうれしそうにひと鳴きしてから、リープリングは大口を開けて長いあくびをした。はしゃぎすぎて疲れたのか、すぐにうとうととまどろみ始める。
 (くすぶ)りかけている暖炉を覗き込み、火かき棒で(まき)の位置を微妙にずらす。いい感じで炎の勢いが戻ったのを確認すると、ベッティはリープリングの大きな体にもたれかかった。

 本格的な冬には少し早いが、雪の降る日も増えてきている。正午を過ぎて、見上げる窓枠の形の空は、見惚(みほ)れるほどに真っ青だ。カイがここまで来るのに、難儀することもないだろう。

 こぎれいになった部屋を見回して、充足感に息をつく。汚れたものが自分の手でピカピカになっていくさまは、見ていてとても気持ちがいい。難しい任務をこなした時とはまた違った爽快感があって、ベッティは(こと)のほか掃除が好きだった。

 薪がばちりと()ぜて、細かい火の()が跳ね踊る。燃え尽きかけた(すみ)に宿る琥珀の色が、カイの瞳に似て見えて、ベッティは小さくため息を落とした。こじんまりしたこの家は、どんなに(みが)いてもカイには到底そぐわない。満たされた心とは裏腹に、そんな思いが頭をもたげてくる。

(本当ならカイ坊ちゃまは、もっと優遇されるべき立場なのにぃ……)

 甘んじてそれを受け入れているカイに、どうしても歯がゆさを感じてしまう。

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