嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
リープリングの寝息に合わせて、ベッティも浅いまどろみに誘われていく。カイはベッティに世界をくれた。これまでいた真っ暗で先の見えない世界ではなく、まぶしすぎて先が見えない、どこまでも広がるまっさらな世界だ。
ベッティの母親はどうしようもない人間だった。酒と煙草と男に溺れ、ろくに面倒を見てもらった覚えもない。日々の糧は自分で調達し、盗みや人をだますことも厭わなかった。幼いベッティは、そうしないと生きていけなかったから。
そんなある日、母親は流行り病であっさり死んだ。その後は教会と里親をたらいまわしだ。自分の歳すらも言えず、学もマナーもないベッティはどこに行っても厄介者扱いだった。最後に行きついた養父にこき使われて、挙句の果ては身売りをされそうになった。
逃げ出して、ひとりで生きることを決めた。教会を頼ると、またあの狡賢い養父につかまりかねない。街を流れては悪さを働き、時には心無い奴らに騙されて、ベッティはその日暮らしを死に物狂いで続けた。
あの女のようにはなりたくなくて、体を売ることだけはしなかった。酔っぱらっていないときはなく、常に男に依存し目先の快楽だけに執着する。怠惰で寝穢かった母親を思い出すたび、安い香水とごみ屑に埋もれた薄暗い部屋の饐えた臭気が、今になっても鼻をつく。
『あんたの父親は偉いお貴族サマなんだよ』
ことあるごとに、得意げに言われた台詞だ。男をとっかえひっかえする毎日に、ベッティの父親が誰かなど分かるはずもない。第一そんな金ずるがいたのなら、離さずしがみついていればよかったものを。大方、酩酊状態で知り合って、行きずりで捨てられたという程度のオチだろう。
すり減っていく放浪の日々に疲れ切っていたある日、盗みがバレてベッティは袋叩きにあってしまった。雪降る外に放り出され、痛みと空腹と寒さの中で、握りしめていたのはひとつのカフスボタンだった。
とても作りがよく、蛇と梟が掘られたちょっと気味の悪いものだ。父親の手がかりだと、唯一あの女が遺したものだった。その言葉を信じたわけではなかったが、ベッティはずっとそれを手放せないでいた。
持ち主が見つかれば金を巻き上げられるかもしれないし、いざとなれば売り払うこともできる。そんな思いで持ち続けていた。今これを金に換えれば、しばらくは飢えをしのげるだろう。うす汚い子どもだと思って足元を見られないよう、できるだけ高く売りつけなくては。
ベッティの母親はどうしようもない人間だった。酒と煙草と男に溺れ、ろくに面倒を見てもらった覚えもない。日々の糧は自分で調達し、盗みや人をだますことも厭わなかった。幼いベッティは、そうしないと生きていけなかったから。
そんなある日、母親は流行り病であっさり死んだ。その後は教会と里親をたらいまわしだ。自分の歳すらも言えず、学もマナーもないベッティはどこに行っても厄介者扱いだった。最後に行きついた養父にこき使われて、挙句の果ては身売りをされそうになった。
逃げ出して、ひとりで生きることを決めた。教会を頼ると、またあの狡賢い養父につかまりかねない。街を流れては悪さを働き、時には心無い奴らに騙されて、ベッティはその日暮らしを死に物狂いで続けた。
あの女のようにはなりたくなくて、体を売ることだけはしなかった。酔っぱらっていないときはなく、常に男に依存し目先の快楽だけに執着する。怠惰で寝穢かった母親を思い出すたび、安い香水とごみ屑に埋もれた薄暗い部屋の饐えた臭気が、今になっても鼻をつく。
『あんたの父親は偉いお貴族サマなんだよ』
ことあるごとに、得意げに言われた台詞だ。男をとっかえひっかえする毎日に、ベッティの父親が誰かなど分かるはずもない。第一そんな金ずるがいたのなら、離さずしがみついていればよかったものを。大方、酩酊状態で知り合って、行きずりで捨てられたという程度のオチだろう。
すり減っていく放浪の日々に疲れ切っていたある日、盗みがバレてベッティは袋叩きにあってしまった。雪降る外に放り出され、痛みと空腹と寒さの中で、握りしめていたのはひとつのカフスボタンだった。
とても作りがよく、蛇と梟が掘られたちょっと気味の悪いものだ。父親の手がかりだと、唯一あの女が遺したものだった。その言葉を信じたわけではなかったが、ベッティはずっとそれを手放せないでいた。
持ち主が見つかれば金を巻き上げられるかもしれないし、いざとなれば売り払うこともできる。そんな思いで持ち続けていた。今これを金に換えれば、しばらくは飢えをしのげるだろう。うす汚い子どもだと思って足元を見られないよう、できるだけ高く売りつけなくては。