嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「そ、それは……。しかし、ですが……」

 口ごもる従者を無視して、少年がベッティに向き直る。

「君、名前は?」
「……ベッティ、でいい」

 ベッティの本当の名前はエリザベスだ。自分でつけたろうに、あんたには過ぎた名だと母親にはいつもベッティと呼ばれていた。今さらエリザベスだと気取る気にもなれなくて、ベッティはぶっきら棒にカイに返した。

「でいい? じゃあ本当はエリザベスってとこか」

 はっと顔を上げ、ベッティはすぐしまったという顔になった。こんな反応をしたら、図星を刺されたことがもろバレだ。

「カイ様……本気で旦那様に会わせるおつもりですか?」
「オレに口答えするつもり? 邪魔だ、去れ」

 子供とは思えない冷ややかな声だった。さっと顔を青ざめさせた男は、頭を下げすぐにカイの元を離れた。その背は気配を消すように、あっという間に人の波に紛れていく。

 そのときベッティの腹の虫がぎゅるぎゅると鳴り出した。ここ数日ろくな食べ物にありつけず、空腹を紛らわせるために、寒空の下で雪をかじるくらいしかできなかった。

「とりあえず腹ごしらえでもしようか。どのみち多少のマナーを覚えてもらわないことには、さすがにすぐには会わせられないしね」

 そのあとベッティは王都のはずれ街にあるこんがり亭に連れていかれた。殺人鬼のような見てくれの店主、ダンが驚いた顔で出迎える。

「これはカイ坊ちゃん、おひとりでいらっしゃるなんて珍しいでやすな。そのズタボロは一体どうなさったんで?」
「この()はオレの妹」
「妹?」
「偶然そこで拾ったんだ。お腹空いてるみたいだから、何でもいいから食べさせてやって」

 何かを言いかけて、ダンは厨房に引っ込んだ。ほどなくして、こんがり焼けた肉の(かたまり)が運ばれてくる。今まで見たこともないご馳走を前に、ベッティは目を見開いた。とびかかる勢いでダンから皿を奪い取り、手づかみで無我夢中で(むさぼ)った。

 あの姿は飢えた(けもの)のようだったと、今でも時々カイに笑われる。きっとベッティは確かに獣だったのだろう。カイに出会ったあの日までは――。

< 135 / 302 >

この作品をシェア

pagetop