嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 ベアトリーセが好きだったジャスミンの花を胸に抱き、イジドーラはその墓前に立った。濃厚な甘い香りが辺りを満たす。ここへ来たのは幾年ぶりだろうか。王妃の座を退くまでは、姉の命日すら自由に動くことは叶わなかった。

 デルプフェルト家の墓所は、以前と変わらず(さび)れた印象だ。手入れは行き届いているものの、心を込めて通う者などいないのだろう。命日の今日でさえ、ほかに献じられた花もない。

 白一色の花束を冷えた墓標に手向(たむ)け、膝をつき祈りを捧げる。ベアトリーセが青龍の御許(みもと)で、安らかに眠れていることをひたすら願って。

 どんな相手にでもやさしく接する、聖女を体現したかのような姉だった。そんなベアトリーセが次第に狂っていく様を、なす(すべ)なくイジドーラは遠くから見ていることしかできなかった。
 悔恨の痛みばかりが胸の内を巡る。あのとき自分がそばにいてやれたなら。結果はもっと違うものになっていたのだろうか。

「これはイジドーラ王妃」
「デルプフェルト侯爵……」
「わざわざこんな場所にまでご足労いただけるとは。草葉の陰であれも喜んでいることでしょう」

 妻の命日に花束ひとつ持たず、手ぶらでやってくる無神経さに腹が立つ。言っても、王妃という立場から不義理が続いていたイジドーラだ。姉にしてみれば、どちらも似たようなものかもしれなかった。

 並び立った侯爵を一瞥(いちべつ)し、すぐに墓石へと視線を戻した。昔からこの男には嫌悪感しか持てないでいる。それでも王族としての仮面をかぶり、イジドーラはいつも通り平静を装った。

「わたくしはすでに王妃の(かんむり)を降ろした身。二度と間違えないでもらいたいわ」
「ああ、そうでしたな。時が過ぎるのは誠に早い」

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