嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 勝手知ったる我が家だが、今では他人の屋敷も同然だ。もう必要ないからと、カイの部屋は末の弟に使わせている。王城にいるか、任務に出ているか。ここ何年もカイはそんな感じで過ごしていた。
 廊下で出くわした使用人が、真っ青になって逃げていく。これはいつものことなので、別段気にせずカイは目的の場所へと向かっていった。

「カイ兄様!」
「やぁ、ジルヴェスター。随分と大きくなったね」

 飛びついてきた弟を抱き上げる。この家で自分を歓待する物好きは、ジルヴェスターと先ほどの家令くらいだ。

「聞いたよ、父上が兼任する子爵位を譲り受けることになったんだって? おめでとう」
「順番から言うとカイ兄様の方が先なのに」
「はは、オレは領地経営とか向いてないからね。ジルヴェスターはそういうの得意でしょ? 練習と思ってたくさん学ぶといいよ」

 下に降ろして頭にぽんと手を置いた。

「今日はあまり時間がないんだ。また今度ゆっくり話そう」
「はい、兄様! 今日はお会いできてうれしかったです。カイ兄様を見習って、ボクも勉強に励んでまいります!」

 弾むように廊下を行く背にひらひらと手を振った。その姿が見えなくなると、カイは近づく気配に振り返る。

「これはダミアン兄上。ご健勝のようで何よりです」
「今頃ここへ何しに来た」
「何と言われても、父上の招集ですよ」

 睨みつける次兄とは正反対に、カイは張り付けた笑顔をキープした。それが気に食わなかったのか、相手の声音がますます低くなっていく。

「実の母親の命日にも顔を出さず仕舞いのお前が、父上の前に出る資格などない。今すぐこの家から出ていけ」
出来得(できう)るならオレもそうしたいですけどね」

 軽く肩を竦めると、ダミアンの鼻息がさらに荒くなった。当たる理由など何でもいいのだろう。支離滅裂にカイをなじってくるのは毎度のことだ。

「お忙しいイジドーラ前王妃ですらきちんと墓前に現れたというのに、なんたる言い草だ!」
「あいにくですが、今日はオレ、手向けの葡萄酒(ワイン)を持参してないので」
「この悪魔が……!」

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