嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 ブルーメ家の養子になった赤毛の令嬢のことは、すでに社交界で話題になっている。昨年のデルプフェルト家の夜会にルチアを呼んだのは、王家派の者に先に周知するためだった。王の意を()んで、彼らも上手いこと立ち回ってくれるだろう。

「オレは裏から情報を探ります。夜会でルチアと親しくするわけにはいかないですから」
「ああ、そうしてくれ」

 常に既婚者と浮名を流しているカイは、令嬢たちからのウケはすこぶる悪い。挨拶程度ならまだしも、変にカイに近づくと、遊び慣れた令嬢のレッテルを貼られかねないからだ。未婚の彼女らに傷をつけるわけにもいかないので、カイもよほどの理由がない限り令嬢をダンスに誘うことはなかった。

 控えめなノックと共にジークヴァルトが顔を出した。

「ハインリヒ、時間だ」
「ああ、今行く。ではカイ、引き続き頼んだぞ」

 ジークヴァルトを引き連れ、ハインリヒは出ていった。その様子は、カイがふたりに出会ったころと変わらない。

 初めてハインリヒに目通りしたのは、カイがまだ王城騎士となる前の話だった。ベアトリーセの死後、デルプフェルト家で孤立するカイを見かねたイジドーラが、カイを王城に呼び寄せた。今カイがここに立っていられるのも、イジドーラが王妃の権限を用いて、王太子付きの騎士にすべく動いてくれたおかげだ。

 あの日、ハインリヒはジークヴァルトを従えて、カイの前に現れた。すでに王太子となっていた彼は、ひとつ年上なだけにもかかわらず、随分と大人びて見えたことを覚えている。

「これからハインリヒ様にお仕えさせていただく、カイ・デルプフェルトでございます」
「ああ、お前が、星に堕ちる託宣を受けたという……」

 ストレートな物言いに、むっとしてカイは礼を取ったまま口をつぐんだ。それを見たハインリヒが小さく笑ったのを感じ取る。王城(ここ)での扱いも家にいるのと大差はないのだと、ぐっと奥歯を噛みしめた。

「カイ・デルプフェルト。お前にひとつだけ聞きたいことがある。なぜ自分が禁忌の異形となる託宣を受けたのか、お前はその理由を知りたいとは思わないか?」

 予期せぬ言葉に、立場も忘れて顔を上げた。(さげす)むでも()むでもない表情で、ハインリヒはカイを静かに見下ろしている。

「それは……どういった意味でしょうか?」

 真意を推し測ることができずに、探るように問いかけた。

< 171 / 302 >

この作品をシェア

pagetop