嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「わたしは自由に動かせる手駒を必要としている。もしお前がわたしに協力するというのなら、わたしもまたお前の力となろう」
「どうしてそれをこのわたしに? ハインリヒ様ほどのお立場であれば、手駒など選びたい放題でしょうに」
「理不尽な託宣を受けたお前だからこそだ」

 返答しあぐねていると、ハインリヒは冷たい視線を投げかけてくる。

「無理強いはしない。黙って龍の意思に従うことがお前の望みなら好きにしろ。託宣を果たすまで、このままおとなしく不貞腐(ふてくさ)れて過ごすといい」
「な――……っ!」

 瞬間弾けた感情に、カイは声を荒げそうになった。しかしすべてを見透かすような瞳とぶつかって、それ以上言葉を繋げなくなる。

「カイ、お前はそれなりに地位のある人間だ。あぐらをかいて過ごしたところで何の支障もないだろう。だが本当にそれでお前は満足か?」

 そこまで言って、ハインリヒはふっと笑った。

「知識は力となる。自らが動き、得た知識ならばなおさらだ。何、単純なことだ。わたしはお前を利用し、お前もまたわたしを利用すればいい。どうだ? 悪い話ではないだろう?」
「……ハインリヒ様のご意思のままに」

 思ってもみなかった提案に、半ば放心して(こうべ)を垂れた。
 何よりこの場での、自分に対する反応が衝撃的だった。母を死に追いやった忌み児ではなく、利用価値のあるひとりの人間として、ハインリヒはカイを捉えている。ジークヴァルトにしてもそうだった。ずっとハインリヒの後ろに立っていたジークヴァルトは、カイに対して興味すら持っていない。

 人生など、自分次第でどうとでもできるのだ。身動きができない理由は、他人がつけた評価(レッテル)鵜呑(うの)みにしているカイ自身にあるのかもしれなかった。
 何があっても外せない(かせ)は、それでも思いのほか(くさり)が伸びることを知る。

 この日を境に、カイの世界は少しずつ広がり始めた。


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