嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 正式に王城騎士となり、カイは龍の託宣について調査するようになった。ハインリヒの消えた託宣の相手を探しつつ、自分が受けたような託宣が、過去にあるかどうかも(くま)なく探る。時に街に出て、市井(しせい)の情報を集めることも欠かさなかった。
 諜報活動に特化したデルプフェルト家を動かせる立場のカイは、ハインリヒの言う通り相当使える人材となっていった。

 そんなある時に出会ったのがイグナーツだ。彼は公爵家の人間でありながら、ほとんど屋敷にいないらしい。探し出してラウエンシュタイン家へと送り届けるように。そんな(めい)を受けたカイは、最終的に王都の外れ街にあるこんがり亭に行きついた。

 調べれば調べるほど、イグナーツは面白い人物だった。子爵家の庶子だった彼は市井で生まれ育った。にもかかわらず公爵家に婿(むこ)入りを果たしたという変わり種だ。それは龍から託宣を受けていた事が理由らしく、益々カイはイグナーツに興味を惹かれた。極みつけは、年の半分以上は山に出かけていて、冬になるまで帰って来ないと言うからさらに訳が分からない人物像だ。

 実際に会ったイグナーツは、ゆっくりとしゃべる物静かな男だった。初めて訪れたこんがり亭でカイが名乗ると、イグナーツは穏やかな笑みを返してきた。

「ああ、そうですか、それでボクを探しに。わざわざ遠いところをありがとう」

 イグナーツをラウエンシュタイン家に送り届け、その日は当たり(さわ)りなくふたりは別れた。帰り際、ふと思って問いかける。

「イグナーツ様はなぜ毎年山に行っていらっしゃるのですか?」
「取り戻すためにです。大事なものを」
「大事なもの?」
「ええ、ボクにとって何物にも代えがたい……掛け替えのない宝です。それを取り戻せるのなら、ボクは世界のすべてと引き換えにしても構わない」

 そう言ってどこか遠くを見据えたイグナーツの瞳が、しばらくカイは忘れられなかった。どうしても気になって、用事もないのに二度目は自らの意思でイグナーツの元を訪れた。

「イグナーツ……さま?」

 目の前にいるイグナーツに、カイは唖然となった。場末の酒場でグラスを片手にしたイグナーツは、ゲラゲラと笑いながら両脇に露出度高めの女を(はべ)らしている。

「やあ、君は先日の。あの時は世話になったね」

 カイを見て若干目を泳がせた後、イグナーツは何事もなかったかのようにニッコリと笑って見せた。

「やだぁ、イグナーツさま、君、だなんて気取っちゃってぇ」
「そうよぅ、イグナーツさま、めっちゃウケるぅ」
「違いねぇ!」

 女たちが爆笑する中、イグナーツはぐいとグラスを(あお)った。

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