嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「エラ、これをダーミッシュ家に届けてほしいのだけれど」
「伯爵家にでございますか?」
「ええ、お義父様に災害のことでお力を貸していただこうと思って」

 笑顔でそう告げると、途端にエラは渋い顔になった。両手離しに賛成してくれると思っていただけに、リーゼロッテは不思議そうに首を傾ける。

「公爵夫人となられたリーゼロッテ様が実家に助けを求めたとなると、旦那様のお顔をつぶすことになりかねません」
「わたくしそんなつもりは……」
「分かっております。ですが周りがそう見てくれるかどうか」

 頼りない夫のために妻の実家が乗り出したとなると、ジークヴァルトがいい笑いものになる。フーゲンベルク家自体を(おとし)めることになるのだと、やんわり(たしな)められた。

「とはいえわたしに判断はできませんので、こちらの(ふみ)は一度マテアスに預けておきますね。問題ないようでしたらダーミッシュ家に届ける手配をいたします」

 そう言われて託した手紙は、結局家令となったマテアスに却下されてしまったようだ。意気込みばかりが空回りして、そんな自分が歯がゆく思えてならなかった。

 そのままジークヴァルトに会えない日々が幾日も続いた。早朝から現地に(おもむ)き、夜も遅くに戻ったあとは、執務室にこもって朝まで書類を片づけている。そう聞いたリーゼロッテは、いてもたってもいられなくなった。それなのにできることは何もなくて、ただ時間ばかりが過ぎていく。

 部屋でもんもんと過ごしていたある昼下がりのこと。リーゼロッテの耳の守り石がふわりと暖かくなった。
 ジークヴァルトが近くにいるような気がして、思わず部屋を飛び出した。カークを引き連れ、スカートをつまみ上げながら急ぎ廊下を進む。

「ジークヴァルト様!」

 エントランスでその姿を見つけ、小走りに駆け寄った。勢いのまま飛び込むと、力強い腕に抱きとめられる。久しぶりの温もりに、リーゼロッテは胸にぎゅっとしがみついた。

「マテアス、その件はお前の判断に任せる。残りは夜に戻ってからだ」
「承知いたしました、旦那様」

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