嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 書類を抱えたマテアスが足早に執務室へと戻っていった。ジークヴァルトも今から現地にとんぼ返りしなくてはならないようで、ここで打ち合わせをするほど忙しいのだと理解する。

「わたくし、お仕事の邪魔を……」
「いい、問題ない」

 身を引こうとして、逆に強く抱きしめられる。腕の中、見上げた顔に疲労が色濃(いろこ)く表れていた。

「ヴァルト様……わたくしに何かできることは……」

 言いかけて唇を(ついば)まれる。近づいた顔はすぐ離された。

「これで十分だ」

 青の瞳が細められる。後ろから使用人に()かされて、ジークヴァルトは再び領主の顔となった。

「今日中には片がつく。心配せずに待っていろ」
「はい、ヴァルト様。お気をつけて……」

 足早に出ていく背を、リーゼロッテはただ見送るしかなかった。結局何もできない自分が情けなく思えてしまう。

「仲睦まじくされているようで安心しましたわ」
「エマニュエル様!?」
「ご無沙汰しております、リーゼロッテ様」

 いつの間にか隣に立っていたのは、マテアスの姉、エマニュエルだった。彼女は使用人ながらブシュケッター子爵に見初められ、今や子爵夫人となっている。泣きぼくろが(つや)っぽい、ナイスバディな年齢不詳の美女だ。

「今日はお祝いのご挨拶に寄らせていただきましたが、どうやらそれどころではなさそうですね」
「エマ様、わたくし……」

 エマニュエルはこの家で家令の娘として育ってきただけあって、フーゲンベルク領の事情に精通している。何か助言をもらいたくて、リーゼロッテは胸の内を即座に打ち明けたのだった。

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