嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 貴族の養子となった今、誰よりもカイが本当の自分を知ってくれている。最近ではそんなふうに感じたりもしていた。しかしリーゼロッテの結婚式で騎士姿のカイを見かけたとき、ルチアは再び分からなくなってしまった。

 あの日、決して近づくなと母親に言われていた神殿に足を踏み入れて、ルチアは不安で不安で仕方がなかった。そこに見慣れたカイを見つけて、ものすごくほっとする自分がいたのだ。それなのに、並び立つ騎士たちに圧倒されて、話しかけることはおろか近づくことすらできなかった。

 特に騎士団長だという赤毛の男が怖かった。王族だと聞いていたので、不敬にならないよう顔は見ないようにしていた。そんなルチアを見るなり、あの男はこれ見よがしに大きく舌打ちをしてきた。
 そんな王族と当たり前のように言葉を交わすカイは、自分とは違う世界に生きる人間だ。はるか遠い存在に感じられて、どうしようもない孤独感に襲われた。

 場違いすぎる自分は、やはりここにいるべきではない。逃げ出したい気持ちを抱えたまま、ルチアは夜会に出るべく王都のタウンハウスへと来てしまった。

 ため息とともに貴族名鑑を閉じた。表紙に描かれた龍を見て、さらに気分が滅入ってくる。これは国章であると共に、王家の紋章でもある青龍だ。
 母の形見のロケットペンダントを開いた。表はシンプルだが、内側には繊細に龍のモチーフが彫られている。

(この龍が国の紋章と同じものだったなんて……)

 どうしてこんなものを母が持っていたのだろうか。このこともルチアの頭を悩ませていた。
 まだ幼いころ、ルチアは父親についてアニサに尋ねたことがあった。そのときのかなしそうな母の顔が、今でも忘れられないでいる。幼心に聞いてはいけないことなのだと感じたルチアは、それ以降同じ問いを母に投げかけることはしなかった。

(母さんは貴族のお屋敷で働いていて、そこで偉い人と恋に落ちたんじゃないかしら……)

 お姫様ごっこと称してアニサに日々教え込まれたものは、貴族社会でも通じる本物の礼儀作法だった。母はそういうことを教えるマナー教師だったのかもしれない。だが今となっては、真実はすべて闇の中だ。

「イグナーツ様に聞けば、何か分かるかな……」

 彼は母親と昔なじみだと言っていた。ルチアの父親についても、思いあたる人物を知っているかもしれない。

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