嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 翌日も内容の全く変わらないことを説明したマナー教師は、自習を言いつけて部屋を出ていった。ここからは夕食まで放っておかれる時間だ。人目をはばかることなく、ルチアはだらしがなく机に顔を突っ伏した。

「はぁ……息が詰まる……」

 貴族の生活は、何をするにもどこへ行くにも、誰かしらが必ず目を光らせている。逃げ出せないにしても、せめて気晴らししたい欲が湧いてきた。
 ここは王都だ。しかも貴族が住む区画とあっては、治安もそう悪くはないはずだ。そこら辺をちょっと出かけるくらい、市井(しせい)育ちのルチアにとっては簡単にできそうだった。

(夕食前に戻ってくれば、きっと大丈夫よね)

 できるだけ動きやすい服に着替え、ルチアはそっと部屋を出た。領地の屋敷と違って、タウンハウスは使用人の数は必要最低限だ。裏口を見つけると、ルチアは迷いなく外へと飛び出した。

 肌寒いが、吹く風が心地よい。雪の残る庭の石畳は、地熱のお陰で難なく歩けた。しかし途中で大きな水たまりに遭遇する。引き返して表に回ろうかとも思ったが、それでは誰かに見つかってしまうかもしれなかった。

 地面を見やり、しばらく考え込んだ。空を映した鏡のように、水たまりの表面を白い雲がいくつも風に流されていく。
 助走をつければ飛び越えられなくはなさそうだ。意を決して、スカートをたくし上げる。距離を測りながら、そこ目がけてルチアは駆けだした。

「あぁっ」

 踏み切った足がぬかるみに取られ、ルチアは見事にバランスを崩した。あわやおしりから水たまりに突っ込みそうになったとき、誰かがいきなり膝裏を掬い上げてきた。

「やぁ、ルチア」
「カイ!?」

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