嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「では次は髪を結わせていただきますねぇ」

 せわしなく動くベッティの手つきを、ルチアは鏡越しにぼんやりと眺めていた。髪が結い上がっていく様子は魔法のようで、今の方がよほど現実感なく思えてしまう。

「うふふぅ、ルチア様の晴れの舞台ですからねぇ。編み込みには花をいっぱい飾ってぇ、さりげなく小さめの石も仕込んでおきましょうかぁ。あとは毛先をゆるぅく巻いて後ろに流せばぁ、ほぅら超絶完璧ですぅ!」

 歌うようにまくし立てた後、ベッティは休む間もなくコルセットを手に取った。

「さぁさ、仕上げはお着替えですよぅ」

 有無を言わさずガウンをはぎ取られ、コルセットで締めあげられる。夜会仕様の重いドレスを、ベッティは手際よくルチアに着せていった。

「やっぱりデビューのお衣装は格別ですねぇ。白のドレスにルチア様の赤毛が映えてぇ、超絶! お美しいですぅ!」

 ご機嫌な様子のベッティは、おべんちゃらで言っている感じはしない。自分で鏡をのぞいても、確かにそこには絵本から飛び出たようなお姫様が立っていた。
 ルチアが動くと、そのお姫様も同じ動作を真似(まね)てくる。ということは、やはりあれは本当に今の自分の姿なのだろう。

「ねぇ、もうちょっとコルセット、緩められないの? こんなに胸を盛り上げなくたっていいじゃない」
「ルチア様のお胸は詰め物なしでそのボリュームですからねぇ。できる限り緩めに締めてあるのでそれ以上はむつかしいですよぅ」

 げんなりとなってルチアはため息をついた。さっさと夜会を終わらせて、この重苦しいドレスを脱ぎ去ってしまいたい。厚化粧の目元が気になって、ルチアは無意識に指でこすろうとした。

「あっ化粧が崩れるのでむやみにお顔に触れてはいけませんよぅ。ルチア様はもっとお化粧なさってぇ、日ごろから慣れておいた方がよさそうですねぇ」
「別に慣れなくたって……夜会が終わるまではちゃんと我慢するわ」
「ですがぁ社交界デビューが済みますとぉ、茶会や舞踏会にあちこち呼ばれるようになりますよぅ」
「えっ、今日だけじゃないの!?」
「当たり前じゃないですかぁ。ルチア様は婚約者もいらっしゃいませんからぁ、これからいろんな方と引き合わされるでしょうねぇ。今夜もきっと殿方から超絶引っ張りだこになりますよぅ」


 山盛りの不安を抱えたまま、ルチアはブルーメ子爵と共に王城へと向かった。

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