嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 壇上の豪奢(ごうしゃ)な椅子に座り、ハインリヒはデビュタントをひとりひとり迎え入れていた。王となって初めて開く白の夜会だ。王太子時代の自分であったなら、この重大な役目に意気込みもしたのかもしれない。だが(かんむり)を戴いた今となっては、そんな気概はとうに失せてしまった。
 ことさら今夜はそんな思いに拍車をかけていた。辛うじて王の威厳は保っているが、今この頭を占めるのはアンネマリーのことばかりだ。

(よりにもよって夜会の今日に出産の兆しがみられるなど……)

 これから本格的に陣痛が始まるだろう。主治医からそう言われ、夜会を取りやめにしようかと本気で考えてしまった。そこを笑顔のアンネマリーに(さと)されて、こうして王の責務を全うしているハインリヒだった。
 それでもデビュタントの挨拶など今すぐほっぽり出して、アンネマリーのそばにいたいというのが本当のところだ。

 ――無駄じゃ無駄じゃ、行ったところで扉の前で右往左往するのが関の山じゃ!

 脳内で騒ぐ歴代の王たちの(わずら)わしさは相変わらずだ。幾人目かの男爵が、息子を連れてお決まりの口上を述べている。何をどう挨拶されようが、王たちのおしゃべりのせいで会話などまるで聞こえはしない。あまりの馬鹿馬鹿しさに、今すぐこの席を立ち、出産の場に駆けつけるべきなのではと思ってしまう。

 ――いやいや、いつぞや王子の誕生に立ち会って、見事に卒倒した王がおるぞ!
 ――そうだ、あれはやめておけ! 男の立ち入れる場所ではない!

 すぐさま入る王たちの合いの手に、ハインリヒはぎゅっと眉根を寄せた。いつも議会でしているように、目を閉じて時が過ぎるのを待ちたくなる。だがデビュタントを前に、そんなことができるはずもなかった。

 新たにやってきた白の貴族が緊張の面持(おもも)ちで礼を取る。

 ――今宵のデビュタントは、どの令息令嬢も小粒ぞろいじゃな
 ――確かに、話題性に欠ける者ばかりでつまらぬのう!

(爵位の高い低いはあっても、デビューを迎える貴族たちに大粒も小粒もないだろう……)

 内心ため息をつきつつも、連れ立った父親の口が(せわ)しなく動く様子を、ハインリヒは遠い瞳で見守った。

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