嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
――当代の王よ、今こそ常套句を述べるときぞ
唯一まともな助言をくれる王の声がけに、ハインリヒはようやく口を開いた。相手の言っていることが分からずとも、これがあるから王としての体裁が保てている。
「よい、顔を上げよ。この日を迎え、わたしもよろこばしく思う」
鷹揚に言うと、並び立つ貴族が感動したように目を潤ませた。思えば父ディートリヒも絶妙なタイミングで同じ台詞を発していた。あの裏で歴代の王たちが指示を出していたなどと、誰ひとりとして思うまい。
掛ける言葉は似たり寄ったりなので、タイミングさえ外さなければ指示がなくとも乗り切れそうな状況だ。ハインリヒは近頃、読唇術を試みている。ゆっくりとした口の動きなら、どうにか読み解けるようになってきた今日この頃だ。
――当代の王はほんに真面目な性格よのう!
――我らに任せておけば楽であろうに!
――先代王など王妃のことばかり考えておったぞ!
王たちが一斉に笑い声をあげた。こう無秩序に騒がれると、とたんに集中力が削がれてしまう。そうなると読唇術もままならなくなって、結局は王たちに頼らざるを得ないハインリヒだ。
「インゴ・ブルーメ子爵、ルチア・ブルーメ子爵令嬢、ご登場!」
そのとき次のデビュタントを呼ぶ声が、遠くまで高らかに響いた。広間中の貴族たちが、そびえ立つ二枚扉に視線を向ける。
――ようやく真打のお出ましじゃ!
――おお! 今日いちばんの目玉であるな!
その言葉にハインリヒも登場口を注視した。ゆっくりと開け放たれた扉から、子爵に連れられた赤毛の令嬢が歩を進めてくる。玉座の壇上へと続く長い絨毯を渡り、ふたりはハインリヒの前で礼を取った。
(本当に似ているな……)
ひときわ目を引く鮮やかな赤毛に、伏せた瞳は見まごうことなく金色だ。カイから報告は受けていたものの、実際に目にするとやはり動揺を隠せなくなる。
色彩だけでなくルチア・ブルーメの顔立ちは、父ディートリヒにあまりにも似通っていた。妹のピッパと姉妹だと言われても、不思議ではないと思えるほどだ。
これは面倒なことになりそうだ。彼女の容姿を見た貴族たちは、こぞって父親が誰なのかを噂して回るに違いない。
唯一まともな助言をくれる王の声がけに、ハインリヒはようやく口を開いた。相手の言っていることが分からずとも、これがあるから王としての体裁が保てている。
「よい、顔を上げよ。この日を迎え、わたしもよろこばしく思う」
鷹揚に言うと、並び立つ貴族が感動したように目を潤ませた。思えば父ディートリヒも絶妙なタイミングで同じ台詞を発していた。あの裏で歴代の王たちが指示を出していたなどと、誰ひとりとして思うまい。
掛ける言葉は似たり寄ったりなので、タイミングさえ外さなければ指示がなくとも乗り切れそうな状況だ。ハインリヒは近頃、読唇術を試みている。ゆっくりとした口の動きなら、どうにか読み解けるようになってきた今日この頃だ。
――当代の王はほんに真面目な性格よのう!
――我らに任せておけば楽であろうに!
――先代王など王妃のことばかり考えておったぞ!
王たちが一斉に笑い声をあげた。こう無秩序に騒がれると、とたんに集中力が削がれてしまう。そうなると読唇術もままならなくなって、結局は王たちに頼らざるを得ないハインリヒだ。
「インゴ・ブルーメ子爵、ルチア・ブルーメ子爵令嬢、ご登場!」
そのとき次のデビュタントを呼ぶ声が、遠くまで高らかに響いた。広間中の貴族たちが、そびえ立つ二枚扉に視線を向ける。
――ようやく真打のお出ましじゃ!
――おお! 今日いちばんの目玉であるな!
その言葉にハインリヒも登場口を注視した。ゆっくりと開け放たれた扉から、子爵に連れられた赤毛の令嬢が歩を進めてくる。玉座の壇上へと続く長い絨毯を渡り、ふたりはハインリヒの前で礼を取った。
(本当に似ているな……)
ひときわ目を引く鮮やかな赤毛に、伏せた瞳は見まごうことなく金色だ。カイから報告は受けていたものの、実際に目にするとやはり動揺を隠せなくなる。
色彩だけでなくルチア・ブルーメの顔立ちは、父ディートリヒにあまりにも似通っていた。妹のピッパと姉妹だと言われても、不思議ではないと思えるほどだ。
これは面倒なことになりそうだ。彼女の容姿を見た貴族たちは、こぞって父親が誰なのかを噂して回るに違いない。