嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
(やはり正直に父親を公表すべきか……? しかしウルリヒ大叔父の名を出せば、却って誤魔化しているように取られる可能性もある)
ウルリヒは七十代で子をなした計算だ。何しろルチアは、ハインリヒにとって祖父の従妹にあたる。ハインリヒでさえ俄かには信じ難かったというのに、貴族たちがそれを素直に受け入れるとは思えなかった。
(父上の隠し子と噂されるくらいなら、いっそバルバナス叔父上の子という事にしておくのも手か……)
そう思った瞬間、頭に浮かんだバルバナスが鬼の形相で睨みつけてきた。そんな密命を強要したら、今後は会うたびにその顔を拝む羽目になるに違いない。
だがほんの小さな綻びで王家の威信が揺らぐこともある。多くの貴族は龍の託宣の存在を知らないままだ。王家から離反し国家転覆を企もうとした人間は、歴史を遡るといないわけではなかった。
――心配いたすな、そのための根回しぞ!
――この国は忠臣ぞろい、王の意を汲み取る優秀な者ばかりじゃ!
――あとは龍に任せておけば良い、それで万事うまくいく!
歴代の王たちの声にハインリヒも心を決めた。どんな噂が立とうとも、ルチアはブルーメ家の遠縁だと押し切るしかないだろう。
(どのみち隠し子の疑念が向けられるのは父上たちだしな)
母セレスティーヌに似た自分には、降りかかりようもない火の粉のことだ。そう思えば気も楽になる。
(それよりも……)
眼下で礼を取るルチアを見やる。彼女は龍からリシルの名を受け、異形の者に殺められる定めの者だ。その無慈悲な託宣が、この国にどんな恩恵をもたらすと言うのか。
過去起きたことは、王たちの記憶で何もかもを知らされた。しかし来る未来は、ハインリヒには何ひとつ見通せない。
すべては龍の思し召しだと言うのなら――
(託宣が果たされるその時まで、この者の日々の安寧を守ることが、せめてものわたしの務めだ)
挨拶を終え王前を辞するルチアの背中を、ハインリヒは遠い瞳で見送った。
ウルリヒは七十代で子をなした計算だ。何しろルチアは、ハインリヒにとって祖父の従妹にあたる。ハインリヒでさえ俄かには信じ難かったというのに、貴族たちがそれを素直に受け入れるとは思えなかった。
(父上の隠し子と噂されるくらいなら、いっそバルバナス叔父上の子という事にしておくのも手か……)
そう思った瞬間、頭に浮かんだバルバナスが鬼の形相で睨みつけてきた。そんな密命を強要したら、今後は会うたびにその顔を拝む羽目になるに違いない。
だがほんの小さな綻びで王家の威信が揺らぐこともある。多くの貴族は龍の託宣の存在を知らないままだ。王家から離反し国家転覆を企もうとした人間は、歴史を遡るといないわけではなかった。
――心配いたすな、そのための根回しぞ!
――この国は忠臣ぞろい、王の意を汲み取る優秀な者ばかりじゃ!
――あとは龍に任せておけば良い、それで万事うまくいく!
歴代の王たちの声にハインリヒも心を決めた。どんな噂が立とうとも、ルチアはブルーメ家の遠縁だと押し切るしかないだろう。
(どのみち隠し子の疑念が向けられるのは父上たちだしな)
母セレスティーヌに似た自分には、降りかかりようもない火の粉のことだ。そう思えば気も楽になる。
(それよりも……)
眼下で礼を取るルチアを見やる。彼女は龍からリシルの名を受け、異形の者に殺められる定めの者だ。その無慈悲な託宣が、この国にどんな恩恵をもたらすと言うのか。
過去起きたことは、王たちの記憶で何もかもを知らされた。しかし来る未来は、ハインリヒには何ひとつ見通せない。
すべては龍の思し召しだと言うのなら――
(託宣が果たされるその時まで、この者の日々の安寧を守ることが、せめてものわたしの務めだ)
挨拶を終え王前を辞するルチアの背中を、ハインリヒは遠い瞳で見送った。