嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 白の夜会は成人した貴族の令息・令嬢を、新たに社交界へと迎えるための舞踏会だ。デビュタントたちは白の貴族と呼ばれ、白を基調とした装いをするのが習わしとなっている。
 そんな彼らの初々(ういうい)しいファーストダンスを、リーゼロッテはジークヴァルトと共にダンスフロアの外から眺めていた。

(去年の今頃は東宮に連れて行かれてたっけ……)

 離れ離れだった日々の切ない記憶が蘇る。夫婦となって、今は当たり前に一緒にいる毎日だ。それが途轍(とてつ)もない奇跡に感じられて、言いようのない感謝とよろこびが、胸の内にこみ上げてきた。

「どうした?」
「わたくし、ヴァルト様の妻としてここに立てていることが……とても、とてもうれしくて……」

 打ち震える心が声までも震わせる。潤みかけた瞳をリーゼロッテはどうにか理性で落ち着かせた。

「ふっ、そうか」

 やさしく目を細め、長い指が頬をなぞってくる。思い返せばいつだってそうだった。夜会などそっちのけで、ジークヴァルトは自分のことしか見ていない。降りてきた唇の耳打ちに、リーゼロッテも差し出すように頭を傾けた。

「だがそんな可愛いことを言うな。今すぐ連れ帰って寝室に籠りたくなる」
「ひあっ」

 前触れなくピアスの守り石に青の力を吹き込まれる。飛び出た奇声に慌てて周囲を見回すも、オーケストラの演奏に上手くかき消されたようだ。ぷくと頬を膨らませ、リーゼロッテはジークヴァルトを仰ぎ見た。

「もう、夜会でこのような悪戯(いたずら)はなさらないでくださいませ」
「善処する」

 ふいと逸らされた顔に反省の色はない。再び抗議をしようとしたリーゼロッテの視界の(すみ)に、鮮やかな赤毛の令嬢が横切った。

「あ……ルチア様」

 ぎこちなく踊るデビュタントに(まぎ)れて、ブルーメ子爵と踊る姿を見つけた。ひと(きわ)優雅にステップを踏む様は、彼女が市井(しせい)生まれであることが信じられないほどだ。
 見物する貴族たちの視線も、ルチアへと多く注がれている。やはり今期のデビュタントの中で、彼女がいちばんに注目を集めているようだった。ひそひそとなされる内緒話は、ルチアの父親に関する話題ばかりだ。

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