嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「リーゼロッテ」

 いつになく硬い声で呼ばれ、ジークヴァルトへと視線を戻した。

「今日お前が踊るのは、オレとザイデル公爵とだけだ」
「ザイデル公爵様と?」
「ああ、それ以外は一切応じなくていい」

 ザイデル公爵はイジドーラ前王妃の兄だ。夜会ごとに申し込まれたダンスはひとりだけ。レルナー家の夜会でそう約束したことをリーゼロッテは思い出した。

「分かりましたわ。わたくし、ザイデル公爵様以外とは何方(どなた)とも踊りません」
「ああ……」

 安心させるため向けた笑顔に、再び硬い声が返された。まだ何かを言いたげな様子に、小さく首を傾ける。

「それに今夜オレは……」

 言いかけて、ジークヴァルトは口をつぐんだ。いつも以上に深く刻まれた眉間のしわに、不安の心が湧き上がる。

「ヴァルト様は……?」
「今夜、オレはお前意外とひとりだけダンスを踊る」
「わたくし以外の方と……?」
「ひとりだけだ」

 もう一度つけ加え、ジークヴァルトは口を引き結んだ。その様子に、自らが望んでのことでないのが見て取れる。
 言われてみれば、過去ジークヴァルトが自分以外の人間と踊ることは一度もなかった。だが社交の場である以上、ジークヴァルトにも()けられないお誘いがあるのは当然と思えた。

「ええ、分かりましたわ。その間、わたくしちゃんとおとなしくしております」

 心を乱したりしなければ、異形を騒がせることもない。ジークヴァルトと少しの間離れたところで、問題など起こらないだろう。
 いまだ不服そうなジークヴァルトに身を寄せる。リーゼロッテも表面上は納得したものの、心のどこかでは焼きもちが大きく膨らんでいた。こんな小さなことでと自分でも呆れるが、やはりジークヴァルトがほかの誰かに触れるのは嫌だった。

 ファーストダンスが終わりを迎え、あちこちで拍手喝さいが沸き起こる。

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