嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
(フーゴお義父様とクリスタお義母様が一緒の寝室に入るのなんて、前は当たり前に思っていたのに……)

 夫婦の契りを事細かに知った今では、余計な考えがもたげてしまう。
 それにフーゲンベルク家で何事も起きないのは、ジークヴァルトの寝室でまぐあうからだ。あの部屋は壁のいたるところに守り石が埋め込まれている。

(そうよ、お屋敷でもほかの場所だと、キスひとつで大騒ぎになりかねないもの)

 ようやく見つけた反撃に、踊りながらもリーゼロッテはつんと顔を逸らした。

「公爵家の呪いがあるのですから、王城でそんなことできるはずありませんわ」
「そこは何とか上手くやる」

 しれっと返されて、再び言葉を失うしかないリーゼロッテだった。

 そんなことを言っているうちに、二曲続けてのダンスが終わった。大事にエスコートされつつ、一度フロアの外に出る。

(ルチア様だわ)

 ダンス終えたルチアが、別の誰かに次の踊りを申し込まれている。婚約者のいない彼女は多くの声がけを受けていた。立て続けて踊るのは体力が必要なので、大変そうだと同情のまなざしを送った。

(あ、でもあの方はティール公爵様だわ。それにさっき一緒に踊ってらしたのはザイデル公爵様ね……)

 未婚の若い紳士ではなく、高い爵位を持つ既婚者ばかりにルチアは取り囲まれている。その輪には宰相のブラル伯爵もいるようだ。ピンときて、重ねた手にリーゼロッテは力を入れた。

「先ほどヴァルト様が踊るとおっしゃっていたお相手は……もしかしてルチア様なのですか?」
「ああ、そうだ」

 渋い顔になったジークヴァルトも、ルチアの動きを目で追っている。王族の血を引く彼女を心無い者から守るため、そんな王命が下ったのかもしれない。デビューしたての子爵令嬢が公爵からこぞってダンスを申し込まれるなど、通常ではあり得ないことだった。
 辺りにいる貴族たちも、好奇の目でその様子を見守っている。あれこれと囁き合ってはいるものの、この流れでルチアの出自を直接詮索しに行く強者(つわもの)は、きっと現れることはないだろう。

「フーゲンベルク公爵」

 フロアで始まったダンスを横目に、掛けられた声に礼を取る。やってきたのはザイデル公爵だ。イジドーラの兄だけあって、切れ長の瞳が少し強面(こわもて)の印象に思えた。

「夫人と直接お話しするのは初めてですな。お近づきのしるしに、次の曲でわたしと踊っていただけますかな?」
「もちろんですわ、ザイデル公爵様。よろこんでお受けいたします」

 渾身(こんしん)の淑女の笑みで答えると、反比例するようにジークヴァルトの口が思い切りへの字に曲げられた。

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