嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ははは、フーゲンベルク公爵にこんな顔をさせられるのは貴女だけですな」
「そんな……」

 頬を染めつつ、一向に手を離そうとしないジークヴァルトを戸惑いながら仰ぎ見る。

「いいでしょう。フロアに入るまでは夫君(ふくん)にエスコートしてもらうといい」
「お、お心遣い感謝いたします……」

 むすっとしているだけのジークヴァルトの代わりに、そんな返事しか返せない。何とも言えない空気の中、三人はダンスの切れ目でフロアへと足を踏み入れた。

「では今宵、勝ち取った栄誉を満喫させていただこう」

 軽く腰を折ったザイデル公爵を前に、ジークヴァルトはようやくこの手を離した。渋々といった様子に呆れつつ、ザイデル公爵のエスコートにリーゼロッテは身を任せた。

 リーゼロッテから視線を外さないまま、ジークヴァルトが誰ともぶつからずにルチアの元まで進んで行く。上手いこと歩いたと言うよりも、あれは周囲の人間が()けてくれたと言うのが正解だろう。
 たどり着いたジークヴァルトがルチアにダンスを申し込むと、貴族たちが二度見する勢いでざわついた。次いでリーゼロッテにも視線を向けてきて、ザイデル公爵と組む様子に、さらにこちらも二度見される始末だ。

 そんなことをしているうちに次の曲が始まった。慣れない相手と踊るのは(こと)のほか緊張を強いられる。
 途中、ルチアと踊るジークヴァルトの姿が視界に入ったが、今は焼きもちを焼く余裕もない。異形の者にも気をつけなくてはならないので、リーゼロッテはいつも以上に慎重にステップを踏んだ。

「彼も器用なものだな」
「え?」
「貴女しか目に入らないようだ」

 ザイデル公爵の手慣れたリードもあって、リーゼロッテは広いダンスフロアでジークヴァルトの姿を探した。あっさりとすぐそこにいた青の瞳とぶつかって、ちょっとびっくりしてしまう。
 しかもザイデル公爵の言うように、ジークヴァルトはリーゼロッテをガン見していた。一緒に踊るルチアには目もくれていない。ルチアはルチアで心ここにあらずな状態で、ジークヴァルトとは明後日(あさって)の方を向いている。

(ふたりとも、あれでよく転ばないわね)

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