嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 ザイデル公爵の背後に、異形の残り()のようなモヤが(まと)わりついている。さりげなく手をずらし、リーゼロッテはそのモヤをそっと(はら)った。

「おや……?」
「どうかなさいましたか?」

 ドキッとして手を元の位置に戻す。ザイデル公爵は異形が視えていない様子だったので、正直なところリーゼロッテは油断をしていた。

「いえ、今貴女が触れた肩にずっと痛みがあったのですがね……急にそれが引いたもので驚いたのですよ」
「そ、そうでしたの。痛みが引いたのなら何よりですが……知らなかったといえそんな場所に触れてしまうなんて、わたくしったらとんだ失礼を……」
「それは別段構いませんよ」

 上手く誤魔化せたようでほっと胸をなでおろす。今のことが知れたら、ジークヴァルトにダンス禁止令を出されてしまうかもしれなかった。

 リーゼロッテと踊った者は不思議と体の不調が軽くなる。のちにそんな噂が立つなど、現段階で想像できるはずもない。
 さらに言うと、リーゼロッテと踊れる権を巡って、ほとんどの紳士が長い順番待ちをすることになる。生きているうちに踊れるかどうかも危うい状況に、その権利が賭け事のネタになったり借金の担保になったり、果ては裏で売買されたりするなど、そんなこと予想だにしないリーゼロッテだった。

 曲が終わりを告げると、ザイデル公爵から一歩離れ、向かい合わせで互いに礼をする。顔を上げ切る前に、ジークヴァルトに手を取られ腰を強くホールドされた。

「もう、ジークヴァルト様……きちんとルチア様を最後までエスコートなさらないと」
「問題ない」

 言い切ったジークヴァルトの視線の先には、レルナー公爵と連れ立つルチアがいた。これでルチアは公爵四人と踊ったことになる。今期のデビュタントの中では群を抜いて注目を浴びており、(かえ)って悪目立ちしているようにも思えてしまう。

 ザイデル公爵と別れ、ダンスフロアを出たところで今度はティール公爵と出くわした。

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