嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 面倒くさいとしか言いようがないが、貴族社会ではいろんな思惑が絡み合っている。一見平和そうに見えるこの国にも、貴族間の派閥(はばつ)は存在していた。
 それに令嬢時代に(もよお)した茶会とは、まったく意味合いが異なってくる。誰が呼ばれて誰が呼ばれなかった。それは社交界で注目の(まと)となる。フーゲンベルク公爵夫人としての立場と影響力の強さを、よく考えなくてはならなかった。

「だとしたらどうすればいいのでしょうか……」
「やはり大規模な夜会に参加するのが手っ取り早いですね。昼の茶会などでは、どうしても親しい間柄の人間のみに偏りがちです。社交では幅広く交流する必要がありますから」

 情報を入手するためにも、駆け引きは重要だ。淑女同士の社交は、もっぱら噂話と舌戦と言えた。

「まずは貴族の派閥と各家の利害関係をお勉強いたしましょうか。それが頭に入っていないことには、(かえ)っていいように相手に利用されてしまいますから。その上でお披露目の夜会をこなし、それから少しずつ親しい貴族との交流を深めていくのがよろしいですわ」

 恐らくジークヴァルトは、リーゼロッテにここまでのことは求めていないだろう。だがどこまで頑張れるかはリーゼロッテ次第だ。そう思ってエマニュエルは分厚い貴族名鑑を開いた。

「エマ様、わたくしどうしてもジークヴァルト様のお力になりたいのです。どうぞご指導よろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げる姿に、苦笑いを向ける。公爵夫人としての威厳を、リーゼロッテはまず身に着ける必要がありそうだ。

「リーゼロッテ様、公爵夫人たる者、そのように軽々しく頭を下げてはなりませんわ」
「申し訳ございません、わたくし……!」

 慌てて顔を起こし、おろおろと謝罪してくる。やはりリーゼロッテに舌戦は向いていない。その結論にあっさり行き着いて、エマニュエルはどうしたものかと困った顔をした。
 こうなれば最終手段を授けるしかないだろう。どのみちジークヴァルトがリーゼロッテを社交の矢面(やおもて)に立たせるとも思えなかった。

 限られた時間の中、自身が得た社交の技量を、エマニュエルはできるだけやさしくかみ砕いてリーゼロッテに伝授したのだった。

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