嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 壇上を見やると、ハインリヒは口元に手を当て忍び笑いをしている。ジークヴァルトが笑われているのだと分かっているが、当の本人はどこ吹く風だ。リーゼロッテだけが羞恥で真っ赤になって、あまりの理不尽さに頬が大きく膨らんだ。

 そんなとき王族用の通用口から、城仕えの者が慌てたように駆け込んできた。早口な様子で何事かを王に耳打ちしている。真剣な顔つきのハインリヒは深く頷き、次いで玉座から立ち上がった。

「聞け、みなの者! たった今、双子の王子が誕生した。このめでたき日に居合わせた者たちで、盛大に祝うがいいぞ」

 王による宣言に広間から歓声が沸き起こる。豪華なマントを(ひるがえ)して、ハインリヒは壇上を降りた。どよめき続ける会場を背に、そのまま王族用の扉へと消えていく。

(アンネマリーが無事に出産したんだわ! しかも双子の男の子だなんて……!)

 王妃の離宮に行ったとき、アンネマリーのお腹ははちきれんばかりだった。中にふたりも入っていたのだ。それはあの大きさにもなるだろう。
 感動のあまりうまく息ができなくて、ジークヴァルトにしがみついた。駄目だと分かっていても、もりもりと涙がせり上がる。

「ヴァルト様……」
「ああ」

 溢れそうな涙をぬぐわれて、それ以上は泣かないようにと震える唇を噛みしめた。そんなリーゼロッテを腕に抱き寄せると、ジークヴァルトはあやすようにやさしく背中を叩いてきた。

「なんだか良いものを見せていただいた気分ですな」

 生温かい目のティール公爵が、すぐ横でうむうむと頷いている。慌てて腕から抜け出して、リーゼロッテは今さらのように居住まいを正した。

「わたくしこんなに取り乱したりして、お恥ずかしいですわ」
「いやいや、フーゲンベルク公爵は良き奥方を迎えられたようだ。(まこと)にうらやましい限り。おっとこれは我が妻には内緒ですぞ?」

 茶目っ気たっぷりにウィンクされて、リーゼロッテの涙も無事に引っ込んだ。そこをまたジークヴァルトが腰をさらってくる。

「もう、ヴァルト様ったら!」

 誰かと会話するたびにこれをやられては、恥ずかしすぎて夜会など出られなくなる。ふいと顔をそらされて、屋敷に帰ったら夫婦会議の議題に乗せて、絶対に夜会禁止事項に付け足そうと心に決めた。

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