嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「そろそろ帰るぞ」
「え、もうですか?」
「ああ、役割は十分果たした」

 そっけなく言ったジークヴァルトにエスコートされ、会場出口へ向かう。途中、見知った者たちと軽く挨拶を交わす。

(フーゴお義父様たちとも会いたかったけど……)

 これだけ人間が入り乱れていると、目当ての人物にたどり着くのは至難の業だ。アンネマリーのこともありもう少しこの場にいたかったが、従妹とは言え突然王妃に会いに行くことなどできはしない。それに出産直後のたいへんなときに、押しかけるのもハタ迷惑な話だろう。

(そういえば、今年は貞子紳士を見かけなかったわね……)

 思わずきょろきょろと辺りを見回した。

「どうした?」
「あ、いえ、黒髪の女性を背負った方がいらしたでしょう? 毎年白の夜会でお見かけするのに、今年はいらっしゃらないなって」

 肩にだれんと覆いかぶさる貞子は、いつも紳士の顔を愛おしそうに撫でさすっていた。ジークヴァルト曰く、異形の者ではなく貞子は生霊であるらしい。

「ああ……彼は最近、奥方を亡くされたそうだ」
「奥様を……?」

 一瞬、悲しみの感情に囚われるが、ちょっと待てよとリーゼロッテは眉根を寄せた。

(貞子紳士は妻帯者だったのに、令嬢たちをダンスに誘いまくっていたの……?)

 記憶の中の紳士はうら若き令嬢とよく踊っていた。しかも女の生霊が憑くような男だ。一気に貞子紳士の株がダダ下がりし、亡くなった奥さんへ同情心が湧いてきた。

 ふいに足を止めたジークヴァルトに気づき、リーゼロッテは慌てて淑女の笑みを作った。向こうからブルーメ子爵がルチアを連れて近づいてきている。

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