嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 呆然となったままイザベラを見た。色を失くしたルチアを認め、さすがのイザベラも心配そうな顔になる。

 夜会での休憩室の使い道など、ルチアにも良く分かっていた。殿方に連れ込まれる危険もあるため、ひとりで近づかぬよう言い含められている。
 それに市井育ちのルチアだ。男女の営みの詳細を、下町の女たちの下世話な会話から事細かに学んでいた。

「ねぇ、あなた本当にどうなさったの?」
「カイが……」

 ルチアの視線の先を確認し、イザベラは嫌悪の表情であからさまに顔をゆがませた。

「あなた、あんな方が好みなの? やめておきなさい。あの方、ものすごく評判悪くてよ?」
「え……?」
「イジドーラ様の甥なのを(かさ)に着て、既婚の(かた)相手にやりたい放題なさってるって話よ。いやだ、口にするだけでも汚らわしい。名を出す価値もない低俗な方だわ」
「そんな……」

 イザベラの(あざけり)りの言葉が、鋭く耳を刺していく。
 奥に続く扉をもう一度見やる。そこにふたりの姿はすでになかった。

 (ぬぐ)うことのできない疑いの種が、心の奥で小さく芽吹く。見知らぬ誰かと消えたカイの背中が、ルチアの瞳に強く焼きついたのだった。

< 216 / 302 >

この作品をシェア

pagetop