嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 今頃は王家と神殿で、ひと悶着(もんちゃく)は起こしてそうだ。ジークヴァルトの元を離れ、王城内を少々盗み見してきたジークハルトだった。
 こんなふうに勝手気ままに動ける自由が失われるのも、恐らく時間の問題だろう。託宣者が代替わりするのは、ジークハルトには()けようがないことだ。

 ――だとしたらせめて、次代の龍の盾はこの手で守らせて欲しい。

 でないと、守護者である意味がない。異形の者から幼いジークヴァルトを守れなかった日々は、未だジークハルトの胸を撃つ。

(そうだ、オレはこれからも守護者でい続ける)
 誰よりも愛する姉――シイラの願いを未来永劫(えいごう)叶えるために。

 一度はすべてを終わらせる夢を見たジークハルトだ。ジークヴァルトに疑心を植え付け、その距離を広げようと試みもした。それが功を奏して自由にここまで動けるようになったが、今はこの絆が愛おしくて仕方がない。

『あれ、リーゼロッテ、髪の毛に何かくっついてるよ?』

 会話に割り込む口実を見つけ、泳ぐようにすいとふたりに近寄った。

「え? どこでしょう?」
『ほら、ここ。ああもう、そこじゃなくて』

 リーゼロッテとジークヴァルトが、(ふさ)を持ち上げては確かめていく。そうこうしているうちに引っかかっていた糸くずは、髪に埋もれて見えなくなってしまった。

『もう、しょうがないなぁ。ここにあるってば』

 言いながら自身の手首から下を、ジークヴァルトの手に重ね合わせる。いつかそうしたように、ジークハルトはそのままジークヴァルトの腕を動かそうとした。

「やめろ――っ!」

 ばんと(はじ)かれて、ジークハルトは上に吹き飛ばされた。いきなりの怒声に、見下げたリーゼロッテが驚きで固まっている。

『やだなぁ、そんなに怒んないでよ。あのときみたいに体、乗っ取ったりしないって』

 鬼の形相で睨みつけてくるジークヴァルトに、軽く肩を(すく)ませた。

『ちょっと手を借りるくらいどうってことないでしょ? ヴァルトってばホント心が狭いんだから……って、わかったよ、金輪際(こんりんざい)しないからもう許してくれない?』

 誠心誠意謝ったつもりが、逆に苛立ちが増したのが伝わってくる。仕方なしにジークハルトは、天井めざしさらに上に昇って行った。

『リーゼロッテも驚かせてごめん。悪いけどヴァルトの機嫌、うまく取っといて』

 天井を抜ける間際、困惑顔のリーゼロッテにひらひらと手を振る。ジークヴァルトの歯噛みを受けて、今度こそ部屋から姿を消した。

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