嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 同意を求められたものの、どっちつかずに小首をかしげる。(さげす)みの表情を隠そうともせず、カミラはなおも言いつのった。

挙句(あげく)にその女が病気になったとかで、治療費の工面のためにティール家の名を出して借金を重ねていたようですわ。最近ではあちこちの夜会で社交慣れしていない令嬢の同情を誘っては、臆面(おくめん)もなくお金を借りて回っておりましたのよ。ほんと、みっともない」
「治療費を……」
「まぁその女も死んでしまったから、残ったのは借金だけ。馬鹿げた話だとお思いになりませんこと?」

 もう一度見やると、その甥は肩を落として使用人に連れられて行くところだった。

(あの方、貞子紳士だわ)

 以前よりも憔悴(しょうすい)しきった様子だが、確かにもめ事の中心にいたのは貞子紳士だった。しかしいつもと何かが違う。遠ざかる紳士の背中が、やけに物足りなく感じられた。

(貞子がいない――?)

 見かけるたびに紳士の顔を愛おしそうに撫でさすっていた貞子が、紳士の肩からきれいさっぱり姿を消していた。いたらいたで気になるが、いなくなるとこれまた余計に気になってくる。

(貞子は生霊らしいし、紳士への執着がなくなって消えたのかしら……)

 生霊とは生きた人間の強い念のようなものだ。本人の自覚がないまま、霊体の一部を飛ばしてしまうと聞いたことがある。日本での話だが、この世界でもそんな感じなのだろうか。

「パウラお義母様のおしゃべりはきりがないわ。さ、リーゼロッテ様もあちらへ参りましょう」

 手を引かれ席を立つ。パウラたちの輪を離れると、すかさずジークヴァルトが寄ってきた。
 カミラは夫であるグレーデン侯爵と、広間の何もない空間まで歩いて行った。タイミングを見計らったように、控えていたオーケストラがワルツを奏でだす。
 穏やかな曲に乗せて、カミラと侯爵は慣れた様子で踊り始めた。するとほかの者たちも各々のパートナーと手を取り合った。

「踊れるようにと、こんなに広いお部屋でしたのね」
「では奥様、一曲お相手を」

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