嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 ふっと笑ったジークヴァルトが手を差し伸べてくる。一曲と言わず何曲でも踊って欲しい。輝く笑顔でその手を取った。
 薄桃色のドレスがふわりと開く。数組しかいないフロアでは、気兼ねなく踊ることができた。それでも誰かとぶつからないように、ジークヴァルトは空いたスペースへと上手にリードしてくる。自然とフロアの端の方にまで来て、リーゼロッテはのびのびとステップを踏んだ。

 しあわせな思いで満たされる中、ふとカミラとの会話が頭をよぎった。貞子紳士が令嬢たちをダンスに誘っていたのは、病気の妻の治療費を工面するためだったのだ。なりふり構っていられないほどに、切羽詰まっていたのかもしれない。そう思うと切なくなった。

「どうした?」
「いえ……」

 どんなに世間から白い目で見られようとも、紳士は妻を助けたかったのだろう。リーゼロッテはカミラのように、紳士を(あざけ)る気にはなれなかった。ジークヴァルトのために恥も外聞もかなぐり捨てることが、この自分にできるだろうか。そんなことを考える。
 妻を亡くした紳士の心中を思うと胸が痛んだ。ジークヴァルトとの満たされた日常が、明日も必ず来るとは限らない。精一杯、今に感謝しようと、潤みかけた瞳でジークヴァルトを仰ぎ見た。

「わたくし、今こうしてヴァルト様と一緒にいられて、本当にしあわせですわ」

 幾度伝えても伝えきれない。そんな思いで告げたのに、ジークヴァルトは不満げに眉根を寄せた。

「懲りないやつだな……そういうことは屋敷に戻ってからにしろと言っただろう」
「だ、だって……!」

 反論しつつも頬に熱が集まった。白の夜会から帰った夜は、翌日の昼過ぎまでジークヴァルトに付き合わされた。それこそとても人様に言えないような、あれやこれやの濃厚すぎる夫婦の営みだ。
 今夜もあんな恥ずかしいことをされるのかと思うと、羞恥でますます顔が赤くなる。そんなリーゼロッテを見て、ジークヴァルトが口元に魔王の笑みを意地悪く浮かべた。

「具合が悪そうだな。曲が終わったらすぐに(いとま)を告げるぞ」

 理由は分かっているだろうに、耳元でそんなことを言ってくる。これは屋敷に帰り着くや(いな)や、押し倒す気満々に違いない。

(あ……貞子紳士だわ)

 曲が終盤にさしかかったとき、部屋の片隅でひとり座る紳士を見つけた。暗く沈み込む姿に再び胸が痛くなる。

「あっ!」
「どうした?」

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