嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
よくよく見ると、紳士の背後に長い黒髪の女性が立っていた。俯く顔を覗き込んでは、そのまわりをおろおろと周回している。それに気づく様子もなく、紳士は沈痛な面持ちで下を向いたままだ。
「貞子……じゃない?」
「サダコ?」
「あ、いえ、あの方の周りに……」
初めは貞子かと思ったが、黒髪の女性は明らかに異形の者だ。まだひとの形を保っているが、足元に黒いモヤがかかっていた。それに異様な雰囲気を放っていた生霊の貞子と違って、清楚そうな女性に見て取れた。
「放っておけ。あの手の異形は悪さはしない」
「ですが」
ふたりから目が離せなくて、気もそぞろにダンスを続けた。曲が終わった瞬間、黒髪の女性がふとこちらを見やる。まずいと思う暇もなく、リーゼロッテは異形と一瞬視線を絡ませてしまった。
(やばっ)
さっと顔をそらすも、女性はリーゼロッテを注視したままだ。平静を装いながら、よせばいいのにちらっとだけ確認してみる。案の定、今度も見事に目が合った。
紳士を置いて、異形の女性はすぅっと滑るように近寄ってきた。こうなると、そ知らぬふりを貫き通せなくなる。
すかさずジークヴァルトがリーゼロッテを抱き寄せた。睨みつけられた異形がびくりと動きを止める。怯えながらも黒髪の女性は、何か言いたげにすがるような瞳を向けてきた。
「ヴァルト様……あの方のお話を聞くだけでもさせていただけませんか?」
腕の中、上目遣いで懇願する。未練を残した死者はみな、やがて暗い影を纏う異形の者へと変化する。彼女がこの先辿るであろう未来が、リーゼロッテには易々と想像できてしまった。
「どうしても駄目ですか……?」
「……聞くだけだぞ」
苦々しい顔をしつつ、根負けしたようにジークヴァルトは折れてくれた。代わりにきつく体を抱き込んでくる。
「わたくしの言葉がお分かりになりますか?」
腕越しに問いかけた。ぱっと顔を明るくして、黒髪を揺らし女性は何度も頷き返した。自我を失った小鬼を相手にするよりは、すんなり話が聞けそうな感触だ。安心させるために微笑むと、恐る恐るな様子で女性はさらに近づいてきた。
ジークヴァルトが睨むからか、少し手前で立ち止まる。これほど近くにいても、彼女からは異形特有の澱んだ波動は感じなかった。足元が黒ずんでいなければ、生きた人間と見間違うほどだ。
(この方、やっぱり貞子だわ。表情はまったく違うけど……)
「貞子……じゃない?」
「サダコ?」
「あ、いえ、あの方の周りに……」
初めは貞子かと思ったが、黒髪の女性は明らかに異形の者だ。まだひとの形を保っているが、足元に黒いモヤがかかっていた。それに異様な雰囲気を放っていた生霊の貞子と違って、清楚そうな女性に見て取れた。
「放っておけ。あの手の異形は悪さはしない」
「ですが」
ふたりから目が離せなくて、気もそぞろにダンスを続けた。曲が終わった瞬間、黒髪の女性がふとこちらを見やる。まずいと思う暇もなく、リーゼロッテは異形と一瞬視線を絡ませてしまった。
(やばっ)
さっと顔をそらすも、女性はリーゼロッテを注視したままだ。平静を装いながら、よせばいいのにちらっとだけ確認してみる。案の定、今度も見事に目が合った。
紳士を置いて、異形の女性はすぅっと滑るように近寄ってきた。こうなると、そ知らぬふりを貫き通せなくなる。
すかさずジークヴァルトがリーゼロッテを抱き寄せた。睨みつけられた異形がびくりと動きを止める。怯えながらも黒髪の女性は、何か言いたげにすがるような瞳を向けてきた。
「ヴァルト様……あの方のお話を聞くだけでもさせていただけませんか?」
腕の中、上目遣いで懇願する。未練を残した死者はみな、やがて暗い影を纏う異形の者へと変化する。彼女がこの先辿るであろう未来が、リーゼロッテには易々と想像できてしまった。
「どうしても駄目ですか……?」
「……聞くだけだぞ」
苦々しい顔をしつつ、根負けしたようにジークヴァルトは折れてくれた。代わりにきつく体を抱き込んでくる。
「わたくしの言葉がお分かりになりますか?」
腕越しに問いかけた。ぱっと顔を明るくして、黒髪を揺らし女性は何度も頷き返した。自我を失った小鬼を相手にするよりは、すんなり話が聞けそうな感触だ。安心させるために微笑むと、恐る恐るな様子で女性はさらに近づいてきた。
ジークヴァルトが睨むからか、少し手前で立ち止まる。これほど近くにいても、彼女からは異形特有の澱んだ波動は感じなかった。足元が黒ずんでいなければ、生きた人間と見間違うほどだ。
(この方、やっぱり貞子だわ。表情はまったく違うけど……)