嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
生霊だった貞子が、異形と成り代わって目の前にいる。それは生霊を飛ばしていた本人が、命を落としたということに他ならない。
感傷に浸る間もなく、彼女の思念が伝わってきた。瞼を閉じて耳を澄ませる。それは止められない奔流となって、リーゼロッテへと流れ込んできた。
舞踏会の喧騒の中、運命的に出逢ったふたり。そこだけが時間を止めたかのように、まだ若い紳士と彼女が見つめ合う。恋に落ちるのは一瞬だ。気づけば互いの手を取り合って、夢見心地で踊り続けた。
その日からめくるめくような逢瀬が始まった。身分差のあるふたりは、周囲の反対をかいくぐり更に愛を深めていく。どうあっても許されないふたりの恋に、やがて紳士は駆け落ちを決意した。
何もかもを捨て飛び出した嵐の日。寂れた教会で挙げたふたりきりの式。慣れない生活に苦戦しつつも、慎ましやかな日々が繰り返される。
とぎれとぎれの映像が、脳裏に映っては次の場面に移動していく。ふたりの物語は愛に溢れ、リーゼロッテはその眩さに包まれた。
暗転し、寝台に臥せる女性の青白い手を、紳士が握りしめていた。彼女が軽く咳込むと、慌てた紳士が背中をさする。
「ごめんなさい、わたしがこんな体になってしまったばかりに、あなたに迷惑をかけてしまって……」
「何を言うんだ。君のためなら何も苦にならないさ。今度の薬はあまり合わなかったようだね。でも安心して。新しい医者が見つかりそうなんだ。きっといい薬が手に入る」
「だけどもうお金が……」
「そんな心配はしなくていい。大丈夫。全部わたしに任せて、君は療養に専念するんだ」
額にキスをひとつ落とし、紳士は寝室を後にした。つらそうに深い息をつき、女性はひとり瞼を閉じる。
ほどなくして眠る女性の体から、ふわりと何かが分離した。その輪郭は貞子となって、動けない肉体を置き去りにしたまま、ひたすら紳士を目指す。
舞踏会で若い令嬢と踊る紳士。その背後から覆いかぶさり、貞子は紳士の頬を撫でさすった。
愛しい愛しい愛しいひと。
貞子の純粋な思いが、リーゼロッテの奥に木霊する。
新たな治療を求め、紳士は奔走し続ける。その背を見送るたびに彼女の心は生霊を生み、貞子は紳士にどこまでも寄り添った。
急に画面がモノクロになり、重くなった波動にリーゼロッテは無意識に胸を押さえた。真新しい墓石の前でいつまでも佇む紳士を、うしろから彼女が見つめている。そこに刻まれた名は、きっと彼女のものなのだろう。命尽き、体から切り離された彼女の手は、二度と紳士に触れることは叶わない。
感傷に浸る間もなく、彼女の思念が伝わってきた。瞼を閉じて耳を澄ませる。それは止められない奔流となって、リーゼロッテへと流れ込んできた。
舞踏会の喧騒の中、運命的に出逢ったふたり。そこだけが時間を止めたかのように、まだ若い紳士と彼女が見つめ合う。恋に落ちるのは一瞬だ。気づけば互いの手を取り合って、夢見心地で踊り続けた。
その日からめくるめくような逢瀬が始まった。身分差のあるふたりは、周囲の反対をかいくぐり更に愛を深めていく。どうあっても許されないふたりの恋に、やがて紳士は駆け落ちを決意した。
何もかもを捨て飛び出した嵐の日。寂れた教会で挙げたふたりきりの式。慣れない生活に苦戦しつつも、慎ましやかな日々が繰り返される。
とぎれとぎれの映像が、脳裏に映っては次の場面に移動していく。ふたりの物語は愛に溢れ、リーゼロッテはその眩さに包まれた。
暗転し、寝台に臥せる女性の青白い手を、紳士が握りしめていた。彼女が軽く咳込むと、慌てた紳士が背中をさする。
「ごめんなさい、わたしがこんな体になってしまったばかりに、あなたに迷惑をかけてしまって……」
「何を言うんだ。君のためなら何も苦にならないさ。今度の薬はあまり合わなかったようだね。でも安心して。新しい医者が見つかりそうなんだ。きっといい薬が手に入る」
「だけどもうお金が……」
「そんな心配はしなくていい。大丈夫。全部わたしに任せて、君は療養に専念するんだ」
額にキスをひとつ落とし、紳士は寝室を後にした。つらそうに深い息をつき、女性はひとり瞼を閉じる。
ほどなくして眠る女性の体から、ふわりと何かが分離した。その輪郭は貞子となって、動けない肉体を置き去りにしたまま、ひたすら紳士を目指す。
舞踏会で若い令嬢と踊る紳士。その背後から覆いかぶさり、貞子は紳士の頬を撫でさすった。
愛しい愛しい愛しいひと。
貞子の純粋な思いが、リーゼロッテの奥に木霊する。
新たな治療を求め、紳士は奔走し続ける。その背を見送るたびに彼女の心は生霊を生み、貞子は紳士にどこまでも寄り添った。
急に画面がモノクロになり、重くなった波動にリーゼロッテは無意識に胸を押さえた。真新しい墓石の前でいつまでも佇む紳士を、うしろから彼女が見つめている。そこに刻まれた名は、きっと彼女のものなのだろう。命尽き、体から切り離された彼女の手は、二度と紳士に触れることは叶わない。