嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 ぼんやり目覚めると、すぐ目の前にジークヴァルトの青い瞳があった。同じ枕に頭を沈め、向かい合わせで見つめ合う。ジークヴァルトがいるということは、まだ遅い時間だろうか。働かない頭で見回すと、伸びてきた手に引き寄せられる。

 素足を絡めあい、隙間などないほどに体が密着する。リーゼロッテをやさしく抱きしめ、指に髪を絡めながらゆっくりと()いていく。

 大きな腕に包まれる安心感とともに、なんだか恥ずかしさがこみ上げてくる。ジークヴァルトにどんな顔を向けたらいいのか分からなくて、リーゼロッテはその首筋に顔をうずめた。
 愉悦(ゆえつ)を求めるだけではない触れあいに、リーゼロッテはただ戸惑った。恥ずかしいのに、だがとても穏やかな時間だ。夫婦とはこんな時を共有するものなのだと、半ば感動すら覚えてしまう。

 ジークヴァルトは思った以上に筋肉質だ。普段は隠れて見えない腕も胸も腹も背も、見事なくらいに鍛え上げられている。しなやかな体は弾力があって、触れるととても気持ちがいい。髪をなでる指先も心地よくて、うとうととまどろみが訪れた。

 ふと肩口にある傷痕(きずあと)が目に入った。いつか異形に()かれた人間に刺されたものだ。痛々しい引き()れに、リーゼロッテは指をそっと這わせた。無意識に力を流し込む。

「今年は何が欲しい?」
「え?」
「もうすぐお前の誕生日だろう?」

 突然の問いかけに、思わず顔を上げた。静かな瞳に見つめ返されて、離れそうになった体を引き戻される。

「――わたくし、夜会に出たいですわ」

 昼間のエマニュエルとのやり取りを思い出し、とっさにそう口にした。寄せられた眉根に、ジークヴァルトの(いな)の返事が濃く映る。

「異形のせいでわたくしたちの婚姻を、公爵家でお披露目することはできないのでしょう? でしたら呼ばれた夜会でみな様にご挨拶を」
「それは(すで)に社交界で周知のことだ。わざわざ夜会に出て広めることもない」
「ですがわたくしも公爵夫人として社交をこなさないと……ぁんっ」

 反論を封じるかのように、ジークヴァルトが乱暴に唇をふさいでくる。

「そんなものは不要だ」
「で、でも、わたくしだって公爵家の役に」
「駄目だ。お前が表立って何かをする必要はない」
「そんなっヴァ……ると、さま、やめっ」

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