嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 頭頂部が吸い上げられるような感覚とともに、彼女の気配が消え去った。はっと我に返ると、いつの間にか曲が止んでいる。手を取り合ったままの紳士が、目の前で涙をあふれさせていた。

「なぜだろう……まるで妻と、一緒に踊っているかのようでした……」

 リーゼロッテから離れると、紳士は震える手を強く握りしめた。

「おかしな話ですね。申し訳ない。わたしはこれで失礼を」

 ふらふらと紳士は去っていく。その背を見送りながら、リーゼロッテは高い天井を仰ぎ見た。
 光の狭間が閉じていく。彼女は無事に昇って行けたのだろう。余韻に引きずられたまま、リーゼロッテは自身の胸に手を当てた。

「きゃっ」

 強引に腕を引かれ、膝裏を(すく)われる。気づけばジークヴァルトに横抱きで抱え上げられていた。

「ジークヴァルト様!?」

 呼びかけには無反応で、ジークヴァルトは大股で歩を進める。

「あの、ヴァルト様、わたくし自分で歩けますから……ふひぁっ!」

 いきなり青の波動を全身に注がれた。叩き込まれる勢いで、それは嵐のように駆け巡る。何度もされてはきたが、ここまで乱暴なやり方は初めてだ。

「ヴぁ……ヴァルト様、一体何を……」

 前を見据えたまま、ジークヴァルトは答えを返さない。言葉短くパウラに(いとま)を告げると、(けわ)しい顔でジークヴァルトは足早に茶会の席を後にした。
 紳士とダンスを終えたらすぐ帰る。それは宣言された通りなのだが、いつもと違う様子のジークヴァルトにリーゼロッテは戸惑った。

「……もしかして、怒ってらっしゃるのですか?」
 異形の彼女を、この身の内に受け入れたことを。

「ですが彼女は……うひぁっ!!」

 先ほど以上の勢いで力を注がれて、体が腕の中で跳ね上がった。ジークヴァルトにしがみつきながら、痛みすら感じる威力に、いくらなんでもと抗議の念が湧いてくる。

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