嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ヴァルト様……!」
「二度とするな」

 目も合わせずに冷たく言い渡され、驚きで口をつぐんだ。こんなにも怒りを(あらわ)にされては、弁明も続けようがない。

(ちょっと体を貸したくらいでそんなに怒らなくたって……)

 異形と言えど、愛に溢れるひとだった。あの彼女が体を乗っ取ってくるなどあり得ない。自分だって悪さはしない異形だと言っていたくせにと、不満で唇を尖らせた。

「次に同じことをしたら……」

 あまりの声の低さに、はっとなってその顔を凝視する。

(もしかしてダンス禁止とか? まさか夜会NGになったりしないわよね)

 ごくりと(つば)を飲みこむと、ジークヴァルトの眉間のしわがこれ以上なく深まった。

「部屋からは二度と出さない。一歩もだ」
「ええっ!?」

(めちゃくちゃハードル上がった……!)

 言葉を失うも、不機嫌オーラを放っているジークヴァルトが冗談を言っているようにも思えない。それ以上はなんの会話もなく、ふたりは馬車へと乗り込んだ。

(お前が無事ならそれでいい……いつもならそう言ってくれるのに)

 異形がらみで危険な目に合ったとき、ジークヴァルトは常にその台詞を口にした。それに今回は危ないことなど何もなかったのだ。そこまで怒ることはないだろうにと、膝の上でリーゼロッテはしょんぼり(うつむ)いた。

 いまだ不機嫌顔で外を見やっているジークヴァルトに、どう接すればいいのか分からない。初めての喧嘩らしい喧嘩に、頭の中をいろんな思いがぐるぐると回った。気まずい雰囲気も最悪で、なんだか悲しくなってくる。
 こうして抱っこはされているが、今日は髪のひとつも()こうとしない。それどころかこちらを見ようともしてくれなくて、理不尽に攻め立てられているように感じてしまう。漏れ出たため息とともに、仕方なしに頭を胸に預けた。

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