嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 エラが出ていって、手持ち無沙汰にしているルチアをソファに座らせた。

「ねぇ、たまにはわたしが淹れるわ」
「ルチア様がお淹れになるとぉ、超絶渋くなるのでご遠慮くださいましぃ。こんな高級なお茶葉(ちゃっぱ)を台無しになさるおつもりですかぁ?」
「だったらわたし、荷解(にほど)きを……」
「そちらはわたしがすべていたしますぅ。ルチア様は移動でお疲れなんですからぁ、どうぞゆっくりしていてくださいませねぇ」
「そんなに疲れてないから大丈夫よ」
「でしたら刺繍(ししゅう)などなさってはいかがでしょうかぁ? ブルーメ家のお屋敷から一式持ってきておりますよぅ」
「わたしが刺繍苦手なの、あなたも知ってるでしょう? ほかにないの? 床掃除でも窓拭きでも何でもいいわ」
「ルチア様にそんなことをさせたらわたしが叱られますぅ。(じき)にリーゼロッテ様に呼ばれますからぁ、今日のところは令嬢らしくおとなしく座っててくださいませぇ」
「そんなこと言ったって、結局は明日も明後日も何もやらせてくれないじゃない! 何度も言ってるけど、わたし令嬢なんかじゃないわ! 退屈すぎてもううんざりなの!」

 苛立ちをぶつけられ、ベッティはふむと思案顔をした。猫をかぶらなくなってきたのは、ルチアが心を開きはじめている証拠だろう。

「リーゼロッテ様がぁ市井(しせい)で流行りのご本などもたくさん用意してくださったみたいですよぅ。このお部屋はお庭の眺めもいいようですしぃ、小さいですが日当たりのいいサロンもついてますぅ。ブルーメ家のお部屋のようにぃ、窓際でお花を育てるのもいいかもですねぇ」

 令嬢がたしなめる範囲のことを並べ立てるが、ルチアは不満そうに口を引き結んだ。生まれたときからこの生活ならば疑問のひとつも持たないだろうが、市井育ちのルチアは制限だらけの毎日に鬱憤(うっぷん)が爆発寸前となっている。

「ねぇ……本当に貴族ってやめられないの?」
「そうですねぇ。ぶっちゃけ方法はなくもないですがぁ、きっとルチア様には無理ですよぅ」
「なんでよ。方法があるならちゃんと教えて」
「いちばん手っ取り早いのはぁ平民と結婚することですねぇ。そうすれば嫌でも貴族の籍から外されますからぁ」
「平民と結婚……」

 考え込むようにルチアは押し黙った。時に貧乏貴族が、商家のような資金繰りのいい庶民と縁を結ぶこともある。だがそんな円満結婚は(まれ)な事例で、ほとんどが駆け落ち・勘当の波乱コースだ。

(あんまり悪知恵を吹き込むのはマズいかもですねぇ)

 あとでカイに叱られそうだ。この冬の間に贅沢三昧させて、貴族万歳な意識改革を徹底的に施すべきだろうか。

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