嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「怪我はもういいの? どこか痛むところはない? あの日ベッティが大怪我を負ったって、わたくし後からそう教えられて」

 しゃくりあげながら、リーゼロッテはベッティの頬に手を添えた。あたたかい癒しの力が、ふわりとベッティを包み込む。

「もうどこも痛くない? カイ様は大丈夫っておっしゃっていたけど、お願いよ、隠さないで本当のことをちゃんと教えて?」

 ベッティはポカンとなって、唇を震わせ懇願してくるリーゼロッテとしばし見つめ合った。吸い込まれそうな緑の瞳を凝視したまま、次第に笑いがこみ上げてくる。

「く、くふふぅ」

 自分はまだまだ、リーゼロッテを見くびっていたようだ。彼女の人のよさは底抜けどころか底なしだ。あの程度のことでリーゼロッテが怒るなどと、どうしてそんなふうに考えていたのだろうか。

「ベッティ……?」

 笑い止まないベッティを前に、泣き顔のリーゼロッテが小首を傾けた。

「確かにアイツに痛い目には合わされましたがぁ、今では見た通りピンピンしておりますぅ」
「本当に? わたくし、ベッティになんて言って謝ったらいいのか……」
「わたしは自分のすべきことをしたまでですのでぇ。リーゼロッテ様がお気に病む必要はございませんよぅ」

 リーゼロッテの背中をあやすようにやさしく叩く。あの夜、無残に切り取った蜂蜜色の髪は、今では綺麗に整えられていた。だが腰まであった長さには、まだまだ到底及ばない。

「わたしこそ嘘を言って申し訳ございませんでしたぁ。何より大事な御髪(おぐし)を傷つけたこと、心よりお詫びいたしますぅ」
「どうして謝るの? ベッティが謝ることなんて何もないわ」
「リーゼロッテ様は本当にこれっぽっちも怒っていらっしゃらないのですかぁ?」
「だってわたくしを逃がすために必要だったのでしょう? 怒る必要がどこにあるの?」

 心から不思議そうな顔をされ、再び笑いが込みあげる。大概の貴族は守られて当然な上、使用人の失態など当たり前に懲罰(ちょうばつ)の対象だ。むしろそれを鬱憤(うっぷん)払いにしている者も、そこそこの数いるくらいだった。

(どこまで行ってもリーゼロッテ様はリーゼロッテ様なんですねぇ……)

 正直言って初めて会ったときから、無垢(むく)で苦労知らずのリーゼロッテが虫唾(むしず)が走るほど大嫌いだった。だがあまりにも自分とは相容(あいい)れない人種過ぎて、今では一周回って好きになっている。我ながら笑ってしまうと言うものだ。

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