嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 次にリーゼロッテをしげしげと見やると、男の子は二重になったあご下に、むっちりとした手を当てた。

「おまえ、なかなか()いやつだな……よし、このランドルフたまがツマにむかえてやる! ありがたくおもえ」

 ウインナーのような指先が、リーゼロッテの手を取り握りしめてくる。もちもちほっぺのどや顔に見上げられ、驚きつつも目線を合わせるためリーゼロッテは膝をついた。

「光栄なお言葉ですが、わたくしにはもう誓いを立てた伴侶がございます。ランドルフ様にはもっとふさわしいお相手がいらっしゃることでしょう」
「なんと。しょれではしかたないな。もしもちょのあいてがイヤになったら、いつでもおれたまをたよるといいゾ」
「ランドルフ、なんてことをっ!」

 血相を変えて駆け込んできたのは、子爵夫人のエマニュエルだった。

「リーゼロッテ様、息子が失礼をいたしました! この方はあなたよりも目上の方よっ」

 後頭部をぐいと押さえつつ、エマニュエル自身も礼を取った。その手を逃れようとするランドルフの頭を、さらに深く深く下げさせる。

「エマ様のお子様でしたのね。そこまでなさらなくても。わたくしは気にしておりませんわ」
「寛大なお言葉をありがとうございます。この子は子爵家で少々甘やかされ過ぎておりまして……」
「ブシュケッター家の跡取りとして、みなから大切にされているのですね」

 エマニュエルは後妻ながら、子爵家待望の男児を産んだ。初対面の頃はこの若さで五人の子持ちと聞いて驚いたが、義理の娘四人含めての話だったらしい。リーゼロッテが微笑むと、エマニュエルは複雑そうな顔をした。

「困ったことに我が家ではまるで王様扱いでして。このままでは将来に支障をきたしそうで、今、社会勉強をさせているところなのです。さ、ランドルフ、改めてご挨拶なさい。リーゼロッテ様はフーゲンベルク公爵夫人にあらせられますよ」

 促されて、ランドルフはぎこちない身振りで礼を取った。教えられた動きを懸命に再現しようとしているところが、なんとも微笑ましく目に映る。

「ふぅげんべりゅくこうちゃくふじんたま。おハツにおめめにかかりまつ。わたしはランドルフ・ぶちゅけったぁ、みらいのエラぁイししゃくたまなんだゾ」
「ランドルフ!」

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