嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 ベッティを素通りした視線はルチアで止められ、品定めするように上下した。

「そこのおんな、なかなか()いやつだな。よし、このおれたまのツマにしてやろう!」
「ランドルフ! 失礼を言ってごめんなさいね、ルチア様」
「いえ……」

 控えめに笑ったルチアはすぐ目をそらした。社交界では彼女の出自の噂で持ちきりだ。エマニュエルはそんなルチアの様子を見に、わざわざ子爵家からやってきた。

「ベッティ、少しの間、ランドルフの相手をしていてくれないかしら?」
「承知いたしましたぁ。さぁ、ランドルフ様、ベッティがおいしいおやつをご用意いたしますよぅ」
「おお、しょうか。ちょうどおなかがちゅいていたところだ。おまえなかなかきがきくな」
「あまりあげすぎないでちょうだいね」
「お任せをぉ」

 子爵家では欲しがるだけあげてしまうため、ランドルフは幼児にしてあの体型だ。公爵家にいる間に、少しでも痩せさせたいエマニュエルだった。

 ふたりきりになり部屋に沈黙が訪れた。居心地悪そうなルチアは、飾られた花を黙ってじっと見つめている。

 (おおやけ)には隠されているが、ルチアは市井(しせい)で育った王族の血筋の者らしい。マテアスにそう聞かされて、自分が呼ばれた理由を嫌でも理解した。
 いくらリーゼロッテが目をかけていると言っても、生粋(きっすい)の貴族である彼女ではフォローしきれない面も出てくるはずだ。その点、エマニュエルは使用人の立場から子爵家へと嫁いだ身。平民から貴族となったルチアの戸惑いは、自分の方が分かってやれることだろう。

 家令の娘として公爵家で生まれ育ち、貴族階級の知識をきちんと持ち合わせていたエマニュエルですら、社交界に馴染(なじ)むのは多大な時間と努力を要した。下町で育ったルチアなら尚のこと、エマニュエル以上に苦労するのは火を見るよりも明らかだ。
 むしろエラの方が適任に思えたが、彼女はすでに平民に戻ってしまった。身重な上に侍女長の役目をこなすエラの負担を減らしたい。そんなマテアスの思惑も透けて見え、面倒ごとを押し付けられたと思いつつも、姉としては甘んじて引き受けるしかなかった。

(それに王族の血を引いていなければ、マテアスもここまでルチア様を気に掛けることもしなかったでしょうし)

 マテアスの判断は、王の意を()んだ公爵家としての対応だ。そうなれば、エマニュエルもいい加減な態度を取れるはずもない。

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