嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 舞踏会は昨年の白の夜会以来だ。迎えた今日に心が躍る。
 夜会前に体力の温存と称して、ジークヴァルトには一週間前から「まぐあいの禁止令」が(くだ)された。おかげで準備も体調も万全だ。

 夜会の行きは膝に乗らないのが暗黙のルールとなっている。ドレスにしわが寄らないよう気を遣いながら、リーゼロッテは馬車へと乗りこんだ。流れる景色を眺めつつ、窓に映る自分の姿を確かめた。

 今宵(こよい)(よそお)いは既婚者向けの落ちついたデザインのドレスだ。細部にあしらわれたレースがとても繊細で、リーゼロッテの年齢にあった若奥様向けのものとなっている。
 令嬢仕様の可憐なドレスを着る機会はもうないのだと、ちょっぴりさみしくも思った。だがジークヴァルトと夫婦と分かる(そろ)いの衣装が、今はうれしくて仕方がない。

「リーゼロッテ」

 名を呼ばれ顔を上げると、胸のネックレスの位置を指で微妙に直された。この見事な装飾は、着ているドレスとともに、リーゼロッテの誕生日プレゼントということになった。夜会に参加すること込々(こみこみ)で、まるっとすべてを贈られた形だ。

「ありがとうございます、ジークヴァルト様」
「お前はいつまでオレに敬語を続けるつもりなんだ?」

 はにかんで見上げると、ジークヴァルトがふいに問うてきた。夫婦となってそろそろふた月近い。確かに敬語で話す必要は、もうないのかもしれなかった。

「そう……ですわね……」

 しかし急に変えるのも変な気分だ。次の言葉を出しあぐねていると、ジークヴァルトがふっと笑みをこぼした。

「敬称も必要ない。まずは名を呼んでみろ」
「ジークヴァルト……さま」

 小さくつけ加えてしまった。ジークヴァルト相手にタメ口をきくのはどうしてもためらわれて、リーゼロッテは困ったように首を傾けた。

「ジークヴァルト様は公爵ですし、公の場でなら今の口調もおかしくはございませんでしょう?」
「そう言うお前も公爵夫人だろう」
「それはそうなのですが……」

 いきなり今からそうしろというのも難しく思えた。もともと公私の使い分けが下手な自覚があるため、常日(つねひ)ごろからリーゼロッテは自分のことを「わたくし」と言っている。器用に使い分けられる人間は、普段は「わたし」で済ませているものだ。

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