嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「じゃあ、もしエマニュエル様が貴族をやめるとしたら、どんなことをしますか?」
「やめるとしたら?」

 真剣な表情のルチアを前に、エマニュエルは再び眉をひそめた。

「そうね……離婚でも言い渡されれば、貴族籍を抜けることになると思うけれど」
「離婚……。結婚していれば、そうですよね……」

 呟いて、ルチアは考え込むように押し黙る。奇妙な沈黙の後、エマニュエルはストレートに問いかけた。

「なぜそんなことを聞くの?」

 はっと顔を上げ、ルチアは顔をこわばらせた。次いで不自然に視線を逸らされる。

(――この()(あや)ういわ)

 エマニュエルは慣れない社交界でのサポートを任されたくらいの気でいた。だが明らかに、ルチアは貴族でいることから逃げ出したがっている。王族の落し(だね)である彼女を、王家が平民として放置するなどあり得ないと言うのに。

「ルチア様、よかったらご両親のこと、聞かせてもらえないかしら?」

 対応を間違えば、ルチアはフーゲンベルク家に不利益をもたらす存在になるかもしれない。そんな考えがよぎり、言葉を選びながらエマニュエルは慎重に反応を伺った。

「……父はブルーメ家の遠縁です」
「お母様は?」
「母は……」

 ルチアが市井(しせい)で育ったことは内密にされている。当然、本人も口止めされていることだろう。こういった場合はそれらしい身の上話を作りあげ、口裏合わせしているものだ。
 唇を噛みしめたルチアは、しかしそれ以上言葉を発しようとしない。答えたくないのか、答えられないのか。エマニュエルは判断に迷った。

(もしかして……この娘、自分の出自を知らされていないの……?)

 王族として迎えられない理由は、よほどのスキャンダラスな不貞が行われたからだろう。ルチアの置かれている立ち位置は、自分が思うよりも不安定なものなのかもしれない。

 こんな(あや)うげな態度のままでは、社交界でいいように利用されかねない。だがあまり追い詰めると開きかけた心が閉じそうだ。必要な知識を授けるにしても、エマニュエルを信用させないことには素直に耳を傾けることはしないだろう。

 こわばった顔のルチアに向けたふさわしい言葉を探していると、そのルチアが先に口を開いてきた。

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