嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「わたし、本当は貴族なんかじゃないんです! ずっと母と下町で暮らしてて、母が死んだときにイグナーツ様にブルーメ家に連れていかれたんです!」

 突然の告白に思考が止まる。イグナーツと聞いて心当たりがあるのは、リーゼロッテの実の父親であるイグナーツ・ラウエンシュタインだけだ。ここで聞き耳を立てる者などいないだろうが、エマニュエルは思わず声を(ひそ)ませた。

「イグナーツ様って、その方はリーゼロッテ様の……?」

 こくりと頷くと、ルチアは(せき)を切ったようにしゃべり始めた。

「母はむかし貴族のお屋敷で働いてて、そこで誰か偉いひとと出会ってわたしが生まれたんじゃないかって思ってて、だからわたし本当はブルーメ家とはまったく関係ないし養子になる資格なんてないんです! このまま貴族でいるなんて自信ないし絶対に無理だから、だからわたし、わたし……!」
「ちょっと待って」

 咄嗟(とっさ)に言葉を制する。

「あなたの話は分かったわ。でも少しだけ整理させてもらってもいい?」

 ルチアの高ぶった感情を落ち着かせるために、エマニュエルは努めて穏やかな表情を作った。

「お母様がどこのお屋敷で働いていたのかは分かる?」
「いえ……それはわたしが勝手にそう思ってるだけで」
「そう……。ではお父様のことは、お母様から何も聞かされていないのね?」
「はい。でもイグナーツ様なら知っているんじゃないかって思ってます。母はイグナーツ様と知り合いだったみたいだから」
「それを直接(たず)ねたことは?」

 ルチアは小さく首を振った。

「では、この話を知っているのはブルーメ子爵だけね?」
「いえ、お義父様には何も話してません」
「何も?」
「はい、一度も聞かれたことなかったから」

 エマニュエルは絶句した。とてもではないが自分ひとりで処理できるような話ではない。かといってこのまま放置するのも危険すぎる内容だ。

 こんな話を余所(よそ)でされでもしたら、ブルーメ家は立場がなくなりそうだ。ルチアを受け入れているフーゲンベルク家も余波を受けるだろうし、何より彼女を貴族と認めたハインリヒ王などいい笑いものになるに違いない。

(もし本当にこの娘が王族の血筋なら、王家がブルーメ家にきちんと監視するよう通達すべきじゃない)

 社交界は魔窟(まくつ)のような場所だ。立場の弱い子爵令嬢など、簡単に私利私欲の餌食(えじき)にされてしまう。なぜそんな簡単なことが分からないのだろうか。

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